第8回 チーム医療について

前回(第7回)は痛みの評価、電動式PCAポンプで投与履歴を確認して活用する方法を教えてもらいました。
今回はトラブルシュートについてですよね?

ごめんなさい。調整がつかず、今回は間に合いませんでした。
そこで、今回は私が考えているチーム医療について、考えて見ましょう!

しょうがないですね~・・・、
でもチーム医療についても興味があるので聞いてみたいです。

私も実践例をたくさん知りたいのですが、残念ながら国内の情報は詳しくはわかりません。
でも、海外文献ではAcute Pain Service(APS)やAcute Pain Management Team(APMT)という言葉がよく使われています。これらは麻酔科医、外科医、看護師、薬剤師、臨床工学技士、理学療法士といった人たちがメンバーとなった専門チームで、術後痛を抑えるだけでなく、早期回復を目指して活動するチームが紹介されています。

チーム医療概念図

チーム医療概念図

最近導入された栄養サポートチーム(NST)みたいなものですか?

NSTや緩和ケアチームをイメージするとわかりやすいかもしれません。
私が以前見学した海外の施設では、麻酔科医と4~5名の専門看護師さんが術後痛や外傷による急性痛がある入院患者さんを、1~2回/日の回診して、病棟スタッフも交えて痛みの評価や対応をしていました。
また、急性痛治療のプロトコルの作成、評価、病棟スタッフの指導を行っていました。そのときに、「日本の病院でもこのようなシステムが導入できればいいな」と直感的に思いました。

でも麻酔科の先生も忙しいし、看護師も多くないし、専門チームを新しく作るには病院全体の合意も必要だし・・・、いろいろ大変ですよね?

確かにそうですが、患者さんの利益を考えると、専門技術や知識を持った多職種者が関わるチーム医療が求められるのだと思います。
今すぐに結論は出ないかもしれませんが、継続的に検討を進めて、我々の病院に合った仕組や組織を作り出すことが必要だと思います。

そのようなチーム作りで重要なポイントは何でしょう?

当然、これまで第1~8回で話してきたことをよく理解してもらうことが必要です。
また、自院の運用や人員に合ったチームを作るためには、患者さんの一番近くで仕事をしている看護師さんの協力は不可欠です!!

話は変わりますが、この前病棟勉強会で、術後の患者さんの早期回復プログラムとして『ERAS®』という言葉が出てきました。これまでの術後痛の話や今日のAPS とも関係ありそうに思うのですが・・・

ERAS®はEnhanced Recovery After Surgery の略語で、日本語では「術後回復強化プログラム」と呼ばれている包括的な周術期管理法です。
最大の目的は、手術を受けた患者さんが「より早く回復する」「出来るだけ早く元の状態へ近づける」ことで、それを達成するために、手術の安全、術後合併症の軽減、術後回復の促進に役立つエビデンスのあるものを積極的に取り入れ、逆に習慣的に行われてきたけれどエビデンスのないものはやめたりしています。
そして、結果的に早期回復だけではなく、入院日数の短縮、コスト低減が可能となるというものです。

当然、術後痛の管理にも関係ありますよね?

そのとおりです。術後早期回復と術後痛管理は密接に関連しています。
まず、ERAS®に上げられているものは図7に示した内容です。入院前のカウンセリングからアウトカム評価まで、その要素は多岐に渡ります。
術後回復に影響する主な因子には「痛み」「腸管機能障害」「不動」があり、これらが相互して回復をさらに遅らせます。そこで、術後痛管理でもこれらへの影響を十分に考えていかなくてはいけません。
さて、ここで復習ですが、以前にお話した術後痛管理の目標、覚えていますか?

図7: ERAS®概念図

図7: ERAS®概念図

「安静時の痛みが抑えられている」
「痛みで体の動きが妨げられない、深呼吸や体位変換が行える」
「鎮痛薬の副作用を最小限にする」でしたよね!

そうですね。これらは術後早期回復の要素でもあります。そして、ERAS®で上げられている「術後オピオイドの非使用、非オピオイド性鎮痛薬( 非ステロイド性消炎鎮痛剤やアセトアミノフェン) の使用」、「胸部硬膜外鎮痛法の活用」、「悪心・嘔吐防止」、「離床、歩行の促進」は術後管理方法やその目標に密接に関係があるものです。

え!! 「術後オピオイドの非使用」って・・・
iv-PCAは使わないんですか?

たしかに大腸手術のERAS®では、原則的に術後オピオイドを使用しないことが推奨されています。その理由は、オピオイドにより悪心・嘔吐、腸管蠕動の抑制、呼吸抑制が生じるおそれがあるためです。そして、術後鎮痛法としては硬膜外鎮痛法が推奨されています。
しかし、凝固機能の異常や抗凝固薬の服用などの理由で硬膜外鎮痛が行えない患者さんもいます。そのような患者さんでは、iv-PCAが必要になります。
そこで「オピオイドは使ってはいけない」と解釈するのではなく、「使用は最小限」と理解すると良いと思います。

痛みの個人差に対応できることがPCAの利点なので、必要最小限の投与量が実現できるということでしょうか?

確かにiv-PCA、特にボーラスを中心とした方法では、その利点が生かされています。
そして、痛みが強い術後2~5日間は、オピオイドの必要量を減らすために神経ブロックや浸潤麻酔、非ステロイド性消炎鎮痛剤やアセトアミノフェンを併用する工夫が必要です。
また、ERAS®で推奨されている硬膜外鎮痛でも鎮痛範囲が症例により異なることや、痛みの個人差があるためにPCA(PCEA)が有用なのは以前にも話したとおりです。そしてここでも、痛みの評価、とくに体動時の痛みやPCAボーラス投与回数を評価して、硬膜外鎮痛を続け、時間が経過したら他の鎮痛法に変更していく工夫が必要です。

ERAS®でも術後痛管理が大切なことがよくわかりました。
でも、ERAS®は痛みだけでなく、栄養やリハビリを含めた包括的な考え方なので、よりチーム医療のアプローチが必要そうですね。

いい指摘だと思います。