第32回日本がん看護学会 学術集会

第32回日本がん看護学会 学術集会

教育セミナー13

本邦における抗がん薬曝露対策の現状とこれから
抗がん薬曝露に対する具体的な取り組みとは

日時 2018年2月4日(日)11:30〜12:30

会場 幕張メッセ 国際会議場303(第6会場)

座長

兵庫県立がんセンター
看護部 がん看護専門看護師

橋口周子ちかこ 先生

 本日は、抗がん剤の曝露対策についてお二人の先生にご講演をお願いしております。
 まず、「本邦における抗がん薬曝露対策の現状とこれから」というタイトルで、国立病院機構四国がんセンターの乳腺外科臨床研究センター臨床研究推進部長、青儀健二郎先生にご登壇いただきます。先生は広島大学医学部医学科をご卒業後、松山赤十字病院、国立病院機構四国がんセンター、広島大学病院などを経て、1999年より同センターに戻られ、2012年より現職に就かれておられます。ご専門は乳腺外科、消化器外科とうかがっております。
 講演のお二人目は、国立病院機構四国がんセンターのがん化学療法看護認定看護師で、看護部外来の副看護師長、岸田恵さんです。岸田さんは平成5年四国がんセンターの看護学校を卒業後、国立病院機構四国がんセンターに入職。その後、国立がんセンター中央病院に2年間出向され、そこで抗がん剤曝露への関心を高められました。国立病院機構四国がんセンターに戻られ、平成22年に認定看護師がん化学療法看護コースを修了、平成23年にがん化学療法看護認定看護師の認定を受け、現在に至っています。
 本日はお二人にどのようなお話がうかがえるのか、非常に楽しみにしております。よろしくお願いいたします。

講演1

本邦における抗がん薬曝露対策の現状とこれから

演者

国立病院機構 四国がんセンター
乳腺外科 臨床研究センター 臨床研究推進部長

青儀あおぎ健二郎先生

■ HD曝露対策の現状

 抗がん薬治療により、患者さんには副作用等のリスクはありますが、ベネフィット、つまり治療効果もあります。ですから、患者さんにはハザーダス・ドラッグ(HD)は有用ですが、医療従事者にとってはリスクのみで、ベネフィットは何もありません。長く抗がん薬治療を行う臨床現場に勤務していると、数十年に及び曝露する危険があります。その曝露の経路は皮膚接触、吸入、消化吸収がありますが、メインはHDに直接触れる、またはHDに汚染されたものに触れる皮膚接触です。
 がん患者の増加や抗がん剤の種類の増加、適用範囲の拡大などにより医療者へのHDによる職業曝露が起こっています。特に、調製と投与に関与する薬剤師と看護師のリスクが高いことが報告されています。そうした医療者への職業曝露に関する報告は世界中で多数出されています。曝露により健康に悪影響を及ぼすことがわかっています。急性期症状はもちろん、生殖機能へのリスクやがんの可能性もあるといわれています。一方、職業曝露には安全レベルの設定が困難で、閾値を引くのが難しいという問題があります。
 アメリカでは抗がん薬曝露に対する指針「NIOSH Alert」が2004年に出されました。日本では、それに遅れること11年の2015年に日本臨床腫瘍学会、日本臨床腫瘍薬学会、日本がん看護学会の3学会が合同で「がん薬物療法における曝露対策合同ガイドライン」を出しました。また、厚生労働省が曝露防止対策の取り組みを推進するよう通知を出すなど、HD曝露対策が少しずつ動き出しています。
 しかし、HD曝露対策を構築する上で、いくつかの問題点があります。HD曝露に対する病院管理者やスタッフの理解が不足していますし、モニタリング意識が低く、教育もできていません。実態調査や対策のコストが高く、それに対する財政上の支援がありません。アメリカでは曝露対策に対する法的レギュレーションがありますが、日本にはまだ整備されていません。これらの問題点を抱えたまま私たちは曝露対策を進めなければならないという、非常に困難な状況にあります。

■ NHOネットワークによる多施設共同によるHD曝露の実態調査

 当院では2015年に通院治療室と薬剤部で、フルオロウラシルを対象に、曝露パイロット調査を2回実施しました。調査方法はよく行われるワイプ法に比べるとテクニカルな手順がなく簡易なサンプリングシート法を採用しました。1回目の調査後、対策を立ててから2回目を実施したところ、ガウン作業台上などはコントロールできていたのですが、通院治療室のインフューザーポンプや、薬剤部の安全キャビネット内は一生懸命清掃したにもかかわらずあまり変わっていませんでした(図表1)。この調査結果を見て、汚染の仕方も場所によって違いがあり、一律に清掃すればいい、洗えばいいというのではなく、それなりの対策を立てる必要があることを痛感しました。

■ 図表1
抗がん剤曝露再調査結果
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 また、NHO(国立病院機構)ネットワークの地域のメイン施設に声掛けし、共同研究を始めました。その目的は、HDの取り扱いの際、HD曝露の実態を明らかにすることにより、安全な方法を遵守すれば危険ではないことを医療関係者に普及させることです。期間は2015年1月から2018年3月までの約3年間で、北海道から九州まで27施設(当時)が参加しました。
 評価項目としてはHD曝露の実態調査があります。1回目の実態調査後、対策を取り、2回目の調査後、再度対策を講じ、さらに最終調査を行います。また、改善したらどのくらい曝露が減るかを調べることと、アンケート調査により実際の現状や医療スタッフの満足度を調べることも評価項目に入れました。
 HD曝露実態調査では、薬剤部においては安全キャビネットの内外、ガウン、手袋など、外来化学療法センターおよび病棟においては点滴台下、リクライニングチェアの肘置き部、シューズ裏など、場所を決めて調べました(図表2)。

■ 図表2
曝露調査場所
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 調査結果はまだ解析中です。ある施設での汚染程度と部位内訳を示します。安全キャビネット内の5-FU曝露が高かったことが示されています(図表3)。基準はないのですが、暫定的に汚染程度を色で表示するようにしています。

■ 図表3
病院別5-FU値
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 こうすることにより、施設の上層部と曝露対策の話がインパクトを持ってできるのではないかと思います。3回目になればほとんど曝露は検出されないと予想していたのですが、実際には全施設で多少なりとも曝露はありました。ただし、回を重ねるたびに低くなる傾向にありました。この調査結果から、5-FUやCPAによる曝露をゼロにすることは難しいけれども、軽減する努力は続けていかなければいけないし、それが労働環境の整備につながるということがわかりました。
 曝露対策実態調査では、手袋の種類やHD調製時の閉鎖系器具、投与時の閉鎖系などについてたずねました。また、労働安全衛生総合研究所の吉田仁先生がつくられたチェックリスト(Yoshida’s List)も用いました。このスコアリングシステムで得られた値と実際のHD曝露との関連を結びつける作業を今後進めていく予定です。
 アンケート調査では医療スタッフの満足度調査を行いました。スタッフにとって曝露対策は非常にインパクトが強いとの報告があります。病院上層部にとっても看護師や薬剤師が組織に対しコミットメントを持つことは非常に有益だと思います。
 追加研究として、曝露対策の具体的な手順書を作成中です。曝露の情報公開についても、皆が納得できるスタンダードな方法を提案したいと思っています。曝露対策を臨床現場で行う場合、組織との交渉が必要になるので、どのように話をすれば組織の上層部の理解を得られるのかも、先行施設のデータを皆で共有してスタンダードな方法を探してみたいと思っています。

■ 院内曝露委員会の活動内容

 NHO高知病院では、縦に調製時、投与時、廃棄時、運搬時、スピル時などの場面、横に現状、課題、対策の項目をつくり、1つのエクセルシートに曝露対策をまとめていました。1つのシートに現状分析と対策をまとめることは、大変意義深いと思われます。
 当院では、院内HD曝露委員会を化学療法委員会の下部組織として正式に立ち上げました。メンバーは医師2名、看護師6名、薬剤師3名、臨床工学技士1名、物流管理システム担当者1名、そして事務職1名です。実施可能なところから曝露対策を開始しますが、その際、コストも考慮しなければなりません。メンバーに事務職が入ることで、その場で意見をもらえるので、とてもよいと思っています。同委員会では、スタッフや患者への情報開示を提案したり、教育トレーニングを実施しています。例えば、ガウンや手袋のメーカーにASTMの合格の有無を含めた透過試験のデータや価格を出してもらい、一覧にまとめています。
 CSTD(閉鎖式薬物移送システム)選定に関しては、同委員会が中心となって、安全性、経済性、利便性、貢献度、使用時の確実性を評価し、化学療法委員会・上層部に説明し、看護師等に実際に使ってもらい、最終的に決定するという流れをとっています。ただし、一度決定したら終わりではなく、より良い製品が出ればチェンジしていく必要があると思っています。
 がん患者さんのシーツや枕、拭き取りに使用したタオルなどからCPA(シクロホスファミド)などが検出されることがあるので、これらの場所にもポイントを置く必要があります。排泄物の取り扱いや蓄尿、廃棄など、曝露対策はいろいろな場面で行わなければなりません。調製時には薬剤師、投与時には医師・薬剤師・患者、廃棄時には薬剤師・看護師・清掃業者、在宅では患者・家族にインフォメーションするなど、総合的な曝露対策が必要です。
 安全にHDを取り扱うためには、HDに関する知識教育とスキルトレーニングが欠かせません。当院では年1回院内研修会を行っています。この中で、蛍光塗料液を用いて調剤時や投与時にどれだけ汚染されるか身をもって体験してもらいます。今後は当院だけでなく、愛媛県内の関心ある施設の方にも参加を呼びかけるつもりです。
 専門家と非専門家では意識が違うので、曝露対策ではリスクコミュニケーションとして十分な知識を与えて理解してもらうことも必要です。

■ 曝露対策が当たり前の文化に

 曝露対策のキーワードを挙げてみます。「まず曝露現状調査」をしましょう。次に「曝露評価:値よりも傾向」です。ゼロではなく、軽減させることを目指しましょう。3番目は「チームで取り組む対策」です。薬剤師や看護師だけでなく、医師にも入ってほしいと思います。4番目は「装備:やれるところから。しかしCSTD、PPEは重要」です。CSTDやPPE(個人防護具)を導入するように努力する必要があります。そして、「モニタリング、教育」をきちんとすることです。
 2015年7月に開催された第13回日本臨床腫瘍学会学術集会において「抗がん薬による職業曝露を低減するための札幌宣言」が出ました。この中に、「すべての医療従事者の抗がん薬職業曝露は、各施設での組織全体の取り組みのもと、一人ひとりが曝露に対する正しい理解を持ち、適正な環境下で、正しく手技を実行することで、合理的に低減することができる」と書いてあります。
 HD曝露対策は医療スタッフがチームとして取り組むべき喫緊の課題です。でも、やりがいもあります。チームとして皆で知恵を出し合い、対策に取り組んでいきましょう。曝露対策が当たり前の文化になることを願っています。

講演2

抗がん薬曝露に対する具体的な取り組みとは ~四国がんセンターでの取り組み~

演者

国立病院機構 四国がんセンター
看護部 外来 副看護師長 がん化学療法看護認定看護師

岸田恵先生

■ 当院の抗がん剤曝露調査結果と対策

 平成26年に厚生労働省労働基準局安全衛生部から「発がん性等を有する化学物質を含有する抗がん剤等に対するばく露防止対策について」という通知が出されました。当時、当院ではCSTD(閉鎖式薬物移送システム)は調製時のみで、投与時には使われていませんでした。取り扱い時のPPE(個人防護具)に関しては、調製時でのガウンテクニックは徹底していましたが、投与時にはサージカルマスクとラテックス手袋(一重)のみが必須で、ガウン、ゴーグル、キャップは必要時に使用という状況でした。
 同時期に愛媛県がん診療連携拠点病院の10施設において、どのような曝露防止対策が講じられているかの調査を実施しました。当院と同じようにマスクと手袋は必須で、ゴーグル、ガウンは1~2施設のみ、ガウンといってもエプロン着用が1施設のみという状況でした。CSTDは9施設が導入していましたが、投与システムについては半分くらいの施設が採用している状況でした。曝露対策の教育については各施設にがん化学療法看護認定看護師等がいたのでマニュアルの整備ができていましたが、研修に関しては全施設が導入できていませんでした。この調査後も、愛媛県がん診療連携拠点病院の認定看護師で、どのように対策を進めていったかについて情報共有をしながら進めているところです。
 当院ではサンプリングシート法を用いて、抗がん剤曝露調査を行いました(図表1)。看護師が投与時に使用したガウンや手袋は検出限界値以下となりました。それに対し、環境面では、3カ所のトイレと点滴台下から抗がん剤(フルオロウラシル)が検出されました。薬剤部でもかなりの汚染が見られました。

■ 図表1
抗がん剤曝露調査施行
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 この結果を受けて対策を行いました。通院治療室では、患者さんに対し、座位での排尿と2回洗浄を指導するとともに、ポスターを掲示しました。インフューザーポンプの周りにも抗がん剤が付着していたので、抗がん剤ボトル搬送時にはラテックス手袋(当時)の装着を必須としました。また、通院治療室内を次亜塩素酸ナトリウムで清拭洗浄しました。薬剤部では、環境整備の徹底と院内の注射用抗悪性腫瘍剤調製手順を再確認しました。
 こうした対策を行ったあと、抗がん剤曝露の再調査を行いました。その結果、トイレ、点滴台下および薬剤部においても、抗がん剤の検出の数値はかなり減少しました(図表2)。ガウンや手袋は前回同様、検出限界値以下でした。ただし、インフューザーポンプの周りでは相変わらず抗がん剤曝露が確認されました。そこで、薬剤部でのインフューザーポンプの調製時に、生食または蒸留水をルート内に満たしてから抗がん剤を詰めるという手技に変更したところ、その後の調査では検出限界値以下になりました。

■ 図表2
抗がん剤曝露再調査結果
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 抗がん剤曝露対策への意識の高まりとともに、曝露に対して恐怖心を抱くスタッフがかなり見られるようになりました。正しい知識を持つこと、今あるものを適切に使用して確実な技術を習得することが重要であると考え、体験型曝露研修を実施しました。この研修は医師、薬剤師、看護師の合同とし、蛍光塗料液を用いて、調製から投与管理におけるスピルやスプラッシュが起こりやすい手技を体験してもらいました。この体験を通して、薬剤師は現場で看護師がどのように投与しているかを、看護師は薬剤師がどのように調製しているかを知ることができました。看護師は抗がん剤を混注したところにも蛍光塗料液が付着している現実を目の当たりにし、抗がん剤ボトルのゴム栓を消毒したアルコール綿の管理の重要性を理解することができました。
 さらに、確実な手技をすることで抗がん剤曝露対策を徹底できると考え、全看護師を対象に抗がん剤曝露予防のチェックリストに沿って投与管理のチェックを行うようにしました(図表3)。以前、輸液ポンプ使用時に輸液ボトルから輸液ポンプまでの距離に余裕がないと、24時間点滴中に患者さんが動いた際の負荷でボトル穿刺部よりスピルが発生したというヒヤリハット報告があったので、チェックリストにそれを踏まえた項目を入れました。さらに、抗がん剤を扱った手袋を装着したまま輸液ポンプセットや電子カルテ等を触ると環境拡散が起きることをわかってもらうためのチェック項目も追加しました。

■ 図表3
確実な技術の習得;投与管理
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■ HD曝露対策ワーキンググループの活動

 私たちがん化学療法看護認定看護師だけが曝露対策を行っていても進捗がないので、院内ハザーダス・ドラッグ(HD)曝露対策ワーキンググループ(以下、WG)を立ち上げ、平成28年2月から活動しています。メンバーは、医師、薬剤師、看護師、経営企画室長、臨床工学技士(ME)、院内物流管理システム担当者です。看護師は、がん化学療法看護認定看護師だけでなく、感染管理認定看護師や看護師長を含めた12名が参加しています。WGでは、毎月1回集まって対策を検討しています。
 WGが取り組んだ対策の一つが、ASTMの基準を満たすPPEへの切り替えです。WGが試用品を検討し、外来通院治療室の看護師に試用してもらい意見を確認。費用等も考慮して最終的に決定し、承認決済後、採用となりました。この結果、手袋、マスクの必須だけでなく、ASTMの基準を満たしたガウン、ゴーグルも着用するようになりました。併せて、PPEの正しい着脱の仕方を掲示しやすいようにA4サイズで作成し、スタッフが体得できるようにしました(図表4)。WGの感染管理認定看護師が主体となって、院内のリンクスタッフの協力を仰ぎ、ガウンの着脱についてのチェックリストを用いて、チェックも行っています。

■ 図表4
抗がん剤曝露対策 個人防護具(PPE)
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 スピルの発生時には誰もが迅速に対応する必要があります。既製品のスピルキットは高価なので、院内採用物品を用いて作成しています。スピルキット内に汚染時の対応方法を示した手順書をセットしました。このセットは院内全部署に配置することが望ましいのですが、スピルキットの使用頻度が低く、またコストがかかることから、院内2カ所のみに設置し、その場所を周知しました。手順書だけではイメージがわきにくいので、認定看護師が動画を作成し、全看護師が視聴できる場所に保存しています。スピルが発生した場合には、ヒヤリハット報告を出してもらい、以後同じようなスピルが発生しないような対策をWGで検討し、注意する体制を整えています。
 尿量測定の際、原則蓄尿は行っていませんでしたが、尿量測定を指示する医師がいたので、各診療科の医師と協力して、シスプラチンの使用や血液腫瘍内科のレジメンなど必要時のみ尿量測定を行うようにしました。尿量測定に使用する容器の取り扱いと管理についてのマニュアルも作成し、看護師が排泄物を取り扱う際にはPPEを装着するように周知しています。
 薬剤の便・尿中の排泄率は薬剤によって異なりますが、多くの抗がん剤が約48時間で排泄されることから、WGでは排泄物の曝露対策の期間を投与後48時間と設定して周知し、対策を行ってもらっています。

■ 閉鎖式投与システム導入のプロセス

 愛媛県内で抗がん剤曝露対策閉鎖式投与システム(CSTD)を導入していないのは当院だけという状況になり、ようやく導入に向けての動きが始まりました。WGでは各社からのプレゼンテーションを受けて、当院に合った候補システムを絞りました。当院の薬剤部では以前からB社のシステムを使って薬剤を調製していました。薬剤部より、それを変更する予定はないとの意見が出されたので、薬剤師がB社のシステムを使って調製したものを各社のシステムを使ってどのように投与するのか、デモキットを用いて実演し、各自が使用感を確認しました。WGメンバーだけでなく、別日に病棟看護師にも実施し、意見を確認しました。医師、ME、薬剤師、看護師からの意見を点数でまとめてみたところ、平均合計点にかなりばらつきがありました(図表5)。

■ 図表5
閉鎖式投与システム導入に向けて
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 当院では、血管の開通性が十分に確認できれば、輸液ポンプを使用して投与管理をしてもよいことにしたので、輸液ポンプとの整合性についてMEで試験をしてもらい、輸液ポンプの流量精度正常範囲プラスマイナス10%、閉塞圧警報設定が基準値を満たすJMS社のセットを採用することにしました(図表6)。

■ 図表6
輸液ポンプ
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 CSTD投与システム導入にあたっては、導入薬剤をどうするかという問題がありました。薬剤部での調製を間違わないように全薬剤から導入する、あるいは外来通院治療室から先に導入する施設があると聞きましたが、当院ではまず12薬剤のみを院内一斉導入することにし、それに伴いレジメンも修正しました。
 導入にあたり、薬剤部では調製方法の、看護部では投与管理についての勉強会をそれぞれ開催しました。CSTD投与システム運用マニュアルを作成し、その管理チェック表を用いて全看護師を対象に取り扱いについての周知を徹底しました。CSTD投与システムの払い出し方法については、物流システム担当者と検討しました。
 環境拡散の防止も重要であることから、当院では曝露対策の環境調査を引き続き行っています。最近の調査結果では、通院治療室では抗がん剤の検出がゼロにはならず、トイレの床などで検出限界値に近似の量が検出されています。環境面では、リクライニングチェアの肘置き、換気扇、シューズ裏から検出されました。日頃からの環境整備として界面活性剤含浸のものを用いて清拭することを徹底しています。当院では外部業者に清掃を委託しています。以前から外部委託業者には手袋とマスクを装着し、モップによる湿式清拭を行い、そのモップはその都度捨ててもらっています。それについては継続をお願いしています。シューズ裏は毎日清拭していなかったのを業務終了時に拭くようにしました。

■ 今後の課題

 今後の課題としては、次が挙げられます。

 

① 投与システムの導入後の安全な取り扱いの強化
② 局所注入時の曝露対策の推進
③ CSTD投与システム取り扱い薬剤(現在12薬剤)の拡大
④ 委託業者への曝露対策研修
⑤ 在宅患者に関わる地域スタッフへの曝露対策

 

 がん薬物療法の曝露対策はガイドラインをベースに整備されつつありますが、そのとおりにはいきません。コストの問題などで対策が進みにくい現状があります。しかし、病院スタッフの力を結集して対策を推進することが、安全・確実ながん薬物療法の曝露対策につながると考えています。今後も引き続き対策を検討していくつもりです。

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