第26回日本医療薬学会年会

第26回日本医療薬学会年会

ランチョンセミナー8

USP(米国薬局方)からみた
日本の抗がん薬曝露対策

日時 2016年9月17日(土)12:00〜13:00

会場 国立京都国際会館(第10会場)

座長

市立旭川病院
薬剤科 科長

粟屋敏雄先生

 無菌製剤処理料が保険適応されたのが2010年4月からです。濱先生は、抗がん薬曝露の研究を8年以上前から行われており、多くの研究成果を残されています。本日はその内容を約1時間にまとめてお話いただけるとのことで、大変楽しみにしております。

講演

USP(米国薬局方)からみた日本の抗がん薬曝露対策

演者

神戸市立医療センター西市民病院
薬剤部 副薬剤長

濱宏仁先生

■ はじめに

 私が抗がん薬曝露の研究を始めたのは、約8年半前の抗がん薬に関わる薬剤師の曝露調査研究でした。「調製を行う薬剤師」だけでなく、「監査を行う薬剤師」「取り揃えを行う薬剤師」の尿中から抗がん薬が検出され、「どうしてこのようなことが起こるのか?」という疑問が、抗がん薬曝露対策の研究のスタートとなりました。

■ 喫煙のがんリスクから抗がん薬の職業性曝露対策の必要性を考える

 抗がん薬の職業的曝露による発がん性の疫学のエビデンスは存在していません。しかし環境下や尿の分析によるngレベルでの曝露量の報告は多く出ています。このような状況で、「職業性曝露対策が必要?」「ngレベルの曝露が危険なのか?」との意見を伺うことがあります。この問に対して疫学的エビデンスを示すことはできませんが、「タバコによる健康被害」と比較して考えてみます。
 喫煙ががんのリスク要因であることは周知のとおりです。IARC(国際がん研究機関)の発がん性リスクでは、喫煙はシクロホスファミド(CP)と同様のグループ1に分類されており、厚生労働省のHPには、喫煙による肺がんの危険度は2倍以上と書かれています。
 また、抗がん薬投与による曝露の場合、例えば造血幹細胞移植後の二次発がんのリスクは2〜3倍以上高くなることが報告されています。
 喫煙の健康被害を考えるうえで、疫学以外のエビデンスがあるのでご紹介しましょう。タバコの主流煙の中には約5,300種類の有害化学物質が含まれており、そのうち発がん性物質は約70種類あります。副流煙の化学物質は主流煙に含まる成分とほぼ同じです。例えば、発がん性物質ニトロアミンの量は主流煙中で31〜140ng/本、副流煙中ではその0.5〜5倍量が含まれ、また、副流煙の発がん性物質ベンゾ[a]ピレンの量は68〜140ng/本です。すなわち、タバコについてはngレベルの曝露にも関わらず、受動喫煙と肺がんの因果関係は、推定するに十分なレベルであると言われています。そのニトロソアミンの尿中代謝物が曝露マーカーになるとされています。
 抗がん薬の職業的曝露についても、抗がん薬が医療従事者の尿中から検出されている事実や、環境中から検出されている汚染がng〜μgレベルであることを考えれば、タバコによる曝露と同様に取り扱うべきと考えます。

■ USPの「薬剤の調製 ―無菌調製―」800章

 米国の薬局方(USP)には797章「薬剤の調製 ―無菌調製―」の中に「バザーダス・ドラッグ」(HD=曝露によって健康被害をもたらすか、または疑われる薬品)の項目がありましたが、それが新たに800章「Hazardous Drugs — Handling in Healthcare Settings」として独立しました。本日はこの中からいくつか、日本の「がん薬物療法における曝露対策合同ガイドライン」と比べながら両国の曝露対策について考えてみます。

○ 適用範囲

 USPでは、HD製剤を取り扱うすべての医療従事者とされ、その中には薬剤師や看護師、医師などのほかに獣医も含まれます。
 日本のガイドラインでは、がん薬物療法に関わる医療関係者や医療関連サービス業者、廃棄物処理業者などが挙げられています。すべてが含まれるという点では、米国、日本どちらも同じと言えます。

○ 設備及びエンジニアリングコントロール

 日本のガイドラインでは、外装開封から廃棄までに関わる職員は個人防護具(PPE)の装着が必要で、PPE装着の前後は石けんで手を洗うこと、運搬保管時は1薬剤1袋のジッパー付きプラスチックバッグに入れ密閉保管し運搬すること、落としても壊れない容器を用いること、HDの保管はできる限り専用のスペースが望ましいなどと記載されています。
 USPでは、日本のガイドラインと同じように、運搬用外装容器に入っていることが前提になっています。日本のガイドラインと大きく違うのは調製区域内の汚染防止や陽圧区域周囲への汚染拡散防止のために、無菌調製用区域内や陽圧区域内での容器からの取り出しを禁止していることです。保管については、日本のガイドライン同様に、容器が落下したときに流出や破損を防止するように保管するとされていますが、要冷蔵抗腫瘍性HDは「少なくとも換気回数12回/時の陰圧区域内の専用冷蔵庫で保管する」とも書かれており、米国では陽圧/陰圧という空気の出し入れに関して厳しい要求が記載されています。

○ 無菌調製のエンジニアリングコントロール

 USPでは、次の3つのレベルでコントロールし、曝露を封じ込めるとしています。
 ① 一次レベル(Containment primary engineering control:C-PEC)
  HDの取扱いで、作業者・HDの環境曝露を最小化するよう設計された換気付装置
 ② 二次レベル(Containment secondary engineering control:C-SEC)
  C-PECが設置された部屋
 ③ 補足的エンジニアリングコントロール:保護効果を高める補助的な制御機構を指す
  (例:閉鎖式調製システム=CSTD)
 本日は便宜上C-PECを「安全キャビネット」、C-SECを「抗がん薬調製室」と読み替えて話を進めて行きます。この3つがきちんと守れていることが全ての前提条件となっていることが重要なポイントです。

 「安全キャビネット」については、タイプA2、B1またはB2が容認されており、すなわち換気率は30〜100%のもので良いと記述されています。日本のガイドラインでは100%換気の安全キャビネットが推奨されていますが、「どちらが正しいのか?」を考える前に、USPでは今述べた3つのエンジニリングアコントロールが前提になっていることを考慮しなければなりません。
 USPでは、HDの調製に使用する安全キャビネットは、それ以外の薬剤の調製には使用禁止と書かれています。また、安全キャビネットは抗がん薬調製室内に設置しなければならず、しかも、その調製室は陰圧の部屋であることとされています。一方、日本のガイドラインではそこまで厳しくなく、「HDの調製は他の業務から隔てられた専用の区域で行う」「他のスタッフが立ち入らないよう警告を明示」「1日の作業後に、十分に換気されたエリアでBSC(安全キャビネット)を洗浄する」とされています。

 補足的エンジニアリングコントロールについては、USPでは閉鎖式調製システム(CSTD)が十分な機能を発揮するかどうかは、エビデンスに基づいて各施設で判断するとされています。調製時のCSTDの使用については「should(使うべき)」という表現が使われています。また、安全キャビネットがあることが前提なので、CSTDをその代用として使用してはならないとなっています。HDを投与する際でのCSTDの使用は「must(使わなければならない)」という表現が使われています。

 日本のガイドラインでは、調製時のCSTD使用は「強い推奨」となっています。HD投与管理におけるCSTDの使用は「できる限り使用」という表現が用いられており、USPとは反対の表現になっています。ここで忘れてはいけないことは、前述のとおりUSPの場合、CSTDの使用は安全キャビネット、陰圧調製室とあわせて使用する前提で記述されており、日本での調製環境とは大きな違いがある点です。

 昨年度の日本病院薬剤師会の調査では、がん診療を行っている2,060施設の調査結果として、安全キャビネットで無菌調製を行っているのは約8割(1,641施設)でした。その中で揮発性3剤にCSTDを使用しているのは約5割(799施設)、揮発性以外の薬剤にCSTDを用いているのは約1割(195施設)となっており、まだまだ日本ではCSTDの使用率が低いことがわかります。本年4月の診療報酬の改定により、本年度の調査は若干高くなっているかもしれません。

〈閉鎖式調製システム(CSTD)〉

 米国では、「薬物及びその蒸気を漏れさせない(Nothing out)」「環境由来の汚染を混入させない」「微生物の侵入を防ぐ」(Nothing in)の条件を満たすと、ONBという製品コードを付けることができます。
 現在、日本には、抗がん薬の調製時に使用できる閉鎖式器具は6社6製品あり、2017年早々には7製品になります。そのうち米国でONBコードを取得しているのは4製品です。JMS社の「ネオシールド」は米国では販売されていないのでONBコードを取っていませんが、性能的には準ずると思います。
 それ以外の閉鎖式システムは安全ではないのでしょうか?
 それに答えるには、もう少し詳細に見ていく必要があります。
 四塩化チタンを用いた揮発ガス(煙)の漏れ試験では、フィルター式閉鎖系システムでは煙が漏出することが知られています。また、イソプロパノール(IPA)で行った試験では、機械式CSTDでは漏出を認めませんが、フィルター式では漏出するというデータがあります。しかし、それぞれ漏出しているのはガスであり、抗がん薬ではありません。
 私たちの行った予備試験では、シクロホスファミド(CP)溶解液のバイアルからの採取において「通気針を刺して抗がん薬を採取した場合」と、「CSTDを用いない陰圧操作で抗がん薬を採取した場合」で、バイアルのゴム栓部分に抗がん薬の飛散を確認しました。一方、CSTDを用いると、機械式システムはND、フィルター式のシステムでもゴム栓の接続部の汚染に80〜90%の抑制効果があることが示唆されました。
 次にエアロゾル(空気飛散)を調べてみると、先ほどと同様に通気針を付けた場合、陰圧操作の場合ではかなりの量のCPが検出されました。それに対して、機械式CSTDではND、フィルター式でも99%以上がフィルターで捕獲されている可能性が示唆されました。すなわち、CSTDを使用しない場合に行われている減圧操作は、手袋に抗がん薬が付着したり、周囲に汚染が拡散している可能性が示唆され、CSTDは曝露リスクを大きく減少できる器具と考えています。今後、n数を増やして皆様に報告できるようにしたいと考えています。
 USPで記述されているとおり、このようなデータと施設の状況に応じて閉鎖システムを選択する必要があると考えます。

○ 個人防護具

 PPEは作業者の危険薬のエアロゾル及び残留物の曝露保護の面から、「受領」「保管」「運搬」調製」「投与」「不活性化/除染、洗浄及び消毒」「スピルコントロール」「廃棄物処理」には使うべきと記述されており、それは日本のガイドラインと同じです。少し違うのは、USPでは「靴カバー」を使うべきとしていることです。さらにガウンについては「透過性耐性が証明されているガウンが必要」とされており、使用する備品についても基準が厳しいことが伺えます。

〈手袋〉

 USPでは、手袋は米国材料試験協会(ASTM)の基準に適合しているもの、パウダーフリー、無菌、30分ごとの交換、手袋を外した後は石けんと流水で手を洗うとされています。また、袖カバーを着用とも書かれています。日本のガイドラインでは米国のASTM基準に準拠したものを使用すると書かれています。
 二重手袋にするメリットは、無菌性確保の観点から交換する際の手指の再消毒が不要であり、調製ごとや30分ごとに交換する際の操作が簡便であることです。また、ピンホールがあったとしても、もう1枚で安全性が担保されます。つまり、二重にすることで無菌性の観点と曝露防止の観点の両方が担保されるわけです。
 日本のJIS規格では、ピンホールについて手術用手袋では1.5%、手術用以外では2.5%と決められています。二重手袋にすれば、同じ箇所にピンホールがあいている確率はきわめて低いといえます。

〈個人防護服/ガウン〉

 USPでは、HDの透過耐性が証明されているものでないと使用できないと書かれています。汚染した可能性のある衣服は持ち帰り不可、ガウンは2〜3時間ごとに交換とされています。さらに、危険薬を取り扱う区域で着用したガウンは他の区域では着てはいけないことも記述されています。日本のガイドラインでは低浸透性の繊維と書かれていますが、米国のほうがかなり厳しい基準となっています。

〈眼及び顔面の保護〉

 USPでは、ゴーグルを併用したフェイスシールドで保護することとされていますが、日本のガイドラインではそこまで厳しくなく、「フェイスシールドを推奨するがゴーグルも可」との記載にとどまっています。

〈呼吸の保護〉

 USPでは、手術用マスクでは薬剤曝露からの保護はできない、N95マスクは飛び散った粒子からの保護はできるが、ガス(気体)からの保護はできないと記載されています。呼吸の曝露リスクが存在する場合は、フルフェイス型ケミカルカートリッジ式呼吸用保護具または電動空気清浄機能付呼吸用保護マスクを着用することとされています。日本のガイドラインでは、サージカルマスクも許容されており、USPのほうが厳しい内容になっています。

○ 不活性化、除染、洗浄及び消毒

〈不活性化〉

 USPでは、全ての抗がん薬を不活性化する方法は実証されていないが、目標として表面の完全除染をすることとされています。
 次亜塩酸ナトリウムについては幾つかの論文で効果が実証されていますが、安全キャビネットのステンレスの腐食については考慮すべきと記述されています。

〈除染〉

 USPでは、HD残留物を不活性化、中和または物理的に除去し、それを使い捨て吸収性素材(例:ワイプ、パッドまたはタオル)に移行させることにより行うと書かれています。さらに、HDの表面拭き取りサンプリング法を定期的に実施し、記録することと記載されています。
 日本のガイドラインでは、次亜塩素酸ナトリウムは「弱い推奨」、一部のHDについては5.25%次亜塩素酸ナトリウムが有効であることが確認されており「推奨される」と書かれています。
 私たちが行ったオゾン水と0.1%次亜塩素酸ナトリウムによる抗がん薬汚染環境の除染の研究では、大部分がさっと拭き取るだけで除染され、両方を併用すると98%以上を除染することができました。
 さらに、安全キャビネット内に混入する危険薬汚染の量は、事前に容器表面を拭き取ることにより低減できることが記述されています。要するに、汚染の元が減ることから、キレイになるということです。私たちの研究では、日本のCP、5FUではバイアル表面汚染があったことを報告しており、シスプラチン、カルボプラチン、ドキソルビシン等の複数の製品で同様の報告がされていることは、皆様もご承知のことと思います。
 最初にお話しした抗がん薬に関わる薬剤師の曝露調査研究では、バイアルの取り揃えのみを行った薬剤師の尿中からCPが検出されており、取り揃え時に素手でバイアルを持った場合、そのバイアル表面が汚染されていれば、抗がん薬を体内に吸収してしまうことは、容易に想像がつくと思います。
 バイアル表面汚染については、近年、製薬メーカーから、シュリンク包装したものやケースに入れたものが後発品として発売されていますので、そのような製品を用いることも一つの方策であると思います。
 現在市販されているイリノテカンの各社からの提供データを調べたことがありますが、バイアル洗浄による除染のデータがある会社もあれば、ない会社もあり、それを定期的に調べている会社もあれば、一回限りの場合もあるようです。実際にデータを取り寄せようとすると対応は各社によって温度差があるのも事実です。
 後発品の採用率は病院経営にとって重要なファクターですが、単にコストだけでなく、このような問題に視点を当てることも一つの曝露対策になるものと考えます。
 私たちは「バイアル表面についている薬剤を洗ったらどうなるか?」と考え実験をしました。シクロホスファミドを強制的にバイアル表面に付着させ、その後、洗浄機で洗った場合、キレイになりました。5FUでも同様の結果を得たことから、以前勤務していた施設では製剤専用の洗浄機を準備して、薬品納品時に洗浄を行い、入口で曝露経路の一つをシャットアウトすることを行っています。

○ 環境の質とコントロール

 USPでは安全キャビネット内部、足場、作業区域の表面、パスボックス、準備室、化学療法センターなどの環境調査を少なくとも6カ月毎に定期的に行い、それを記録することが記述してあります。
 表面の危険薬汚染の許容範囲に関する基準はありませんが、初回調査をベンチマークとして、調査を行ったときに、その値を評価することが記載されています。
 汚染が見つかった場合は、汚染の原因を特定し、それを封じ込めた上で記録を残しておく。さらに先ほど説明した不活性化を行い、再度拭き取りサンプリングを行い、除染ができたことを確認することが記載してあり、かなり厳しい基準となっています。

○ 「マルチドーズバイアル」 〜環境に存在する抗がん薬減少による曝露対策〜

 USP797に「Single-Dose and Multiple-Dose Container」に関する基準があります。
 現在の日本では、1つのバイアルから必要な量を取り出し、残った薬剤は廃棄する方法が基本であり、これがシングルドーズバイアルです。この場合使用した薬剤が少量であってもバイアル相当分全てが請求されています。それに対して、マルチドーズバイアルであれば、残った薬液は別の患者さんに分割使用され、医療資源の有効利用となる上に、使用された量に応じて請求がされる方法です。私が所属する日本病院薬剤師会の小委員会でも現在、検討を開始しています。
 USP797には、「初めに充填されているマルチドーズ容器または開封後(例えば、針でゴム栓に刺したあと)のマルチドーズ容器の使用期限(BUD)は、メーカーによって特に明記されない限り28日である(保存効力試験法〈51章〉を参照)」と記載されています。
すなわち、米国ではマルチドーズを想定した容器が存在し、一回使用後28日までは再使用が可能な薬品があり、保存効力試験法によって定められているとUSPに明記されています。
 実際に米国の抗がん薬の添付文書にはマルチドーズバイアルの記述があり、例えばTaxol®の場合には、14日間は使用できる旨、記述がされています。
 保存効力試験法については日本薬局方にも記述があり、USPと同じ内容となっています。どのような試験かと言えば、投与容器中に充填された製剤自体又は製剤に添加された保存剤の効力を微生物学的に評価する方法であり、製剤に試験対象となる菌種を強制的に接種、混合し、継時的に試験菌の消長を追跡することにより保存効果を評価する方法とされています。わかりやすく言えば、シャンプーや化粧品は多回使用に対して保存剤が添加されていますが、その添加剤の効果を調べる試験と理解して下さい。
 私たちはエトポシド、パクリタキセル、イリノテカン、ビノレルビン、シスプラチン、カルボプラチンについてこの試験を行ってみました。ビノレルビンとイリノテカンについては、2つの菌種により発育確認され、それ以外の薬剤については、微生物学的見地からは28日の分割使用が可能ということが分かりました。
 米国では、このような試験に基づいてマルチドーズバイアルが規格化されているということです。しかし、日本の薬局方では、このような定義はありませんので、保存効力が確認されたとしてもマルチドーズバイアルとして分割使用することは、各施設の責任となります。
 USP797では「マルチドーズバイアルではない(=シングルドーズバイアル)抗がん薬の分割使用について」にも記述があります。シングルドーズバイアルの容器の薬剤は原則使用後廃棄ですが、ISOクラス5の環境よりも悪い空気清浄度で穿刺した場合には穿刺後1時間後には廃棄、ISOクラス5以上の環境下であれば穿刺後6時間後までは使用可能と記述されており、クラス5の清浄度を持つ安全キャビネットの中であれば6時間までは再穿刺は可能との記述が局方に記載されています。
 さらに、「本章で記述される以外のテクノロジー、テクニック、材料と手順の使用により、優れていることを証明された限り、禁止されない」と記述されており、CSTDの使用により安全であるエビデンスがあれば、さらに使用期限が延びる可能性もあると理解できます。
私たちが行った実験では、CSTDの接続部に菌を塗布し穿刺操作してみたところ、金属針でも、CSTDの使用でも、バイアル内に菌が混入したことが確認され、抗がん薬の分割使用は、USPのような厳格な基準と安全性の担保が求められると考えます。
 私が所属する日本病院薬剤師会の小委員会にて、がん拠点病院を中心に調べたデータによると、194施設からの回答として94億円/年相当の抗がん薬が廃棄され、環境を汚染している可能性があることがわかっています。別の調査では約2,000施設が国内で抗がん薬を取り扱っているとの報告もありますので、単純計算ですが、その20倍相当の金額の抗がん薬が廃棄されていると考えることができます。

■ まとめ

 以上のように、USP797と800には、かなり厳しい曝露防止対策が書かれています。一方、日本の場合は、各施設の判断がそのまま施設の基準になっている現状があります。
 抗がん薬曝露のリスクマネジメントは、最初にお話ししたタバコの曝露による健康被害と同様に考えることができます。抗がん薬曝露対策先進国である米国の薬局方を参考に、日本の曝露対策でも厳しい安全基準や方向性を定めながら、医療従事者全員がそれを遵守していくことが安全な抗がん薬治療を行うために必要だと思います。

■ おわりに

座長 粟屋先生:濱先生ありがとうございました。私から一つ質問です。ご講演を伺い、米国の薬局方は相当厳しいものであることが理解できました。また最初に述べられた通り、職業性曝露の疫学エビデンスはなく、今後も出ないとのことでした。このような状況において、今日のお話の中で、優先順位の高いものとして、是非これだけはやるべきということのご提案があれば教えてください。

 

演者 濱先生:私がそれに回答するのは大変難しい問題だと思います。曝露対策はリスクマネジメントですので、どれか一つを行えば完璧だというものはないと思います。施設にとってできることを一つひとつきちんと行うことが、前に進む道だと思います。また、決めたことを全員で実行することは、すぐにできることだと思いますので、実行していただければと思います。

 

座長 粟屋先生:各施設で本日の内容を理解し、出来ることから前進して行くことが重要であるということが理解できました。濱先生には、今後もさらに研究を進め、新しい知見を私どもに教えていただけますようお願いして、本日の共催セミナーを終わりに致します。

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