第5回 PCA 法の原理

先生、今回から先輩の看護師も呼んできました!
よろしくお願いします。

皆さん勉強家ですね! 大歓迎ですよ!!
何でも聞いて下さいね。

今回は、PCAの原理について教えてくれるんですよね?

はい。もちろんです。
PCAが有効な鎮痛法であることは、(図4)に示した鎮痛剤の血中濃度と鎮痛効果を比較した研究からわかります。この研究で明らかになったことが2つあります。
ひとつは、第3回でもふれましたが、鎮痛効果が得られるときの鎮痛剤の血中濃度は、約5倍の個人差があることです。
もうひとつは、鎮痛が得られているときの鎮痛剤の最小血中濃度と、痛みを感じているときの鎮痛剤の最高血中濃度の差は小さく、個人差が少なく、ほぼ一定なことです。

図4:PCAの原理

図4:PCAの原理

なるほど...
1つ目は、鎮痛剤投与で血中濃度が上昇して「痛みがとれた」と感じるときの血中
濃度は、患者さんによってだいぶ違う...つまり投与量も違うってことですよね?
2つ目の最小・最高血中濃度の差って、何ですか?

1つ目はその通りで、患者さんによって投与量も違うということです。
2つ目の「最小血中濃度」は、鎮痛剤を少しずつ投与して、「痛みが取れた」とはじめて感じたときの血中濃度のことです。ここまで投与したあと鎮痛剤を投与しなければ、投与された鎮痛剤は代謝されて血中濃度は下がっていきますよね。
「最高血中濃度」は、血中濃度が下がっていって痛みが出はじめたときの血中濃度のことです。「痛みがとれた」と感じる血中濃度と、そのあと「痛くなった」と感じ始める血中濃度の差は小さく、個人差も少ない、ということです。

だんだんわかってきました!
でも、この2つはどうやってPCAに関係するんですか?

痛みをとるために必要な鎮痛剤の量は個人差が大きいので、まずPCAを始める前に、それぞれの患者さんの状態をみながら鎮痛剤を投与して、痛みが治まるまで導くことが大切です。これを「ローディング」といいます(図5)。
手術中に麻酔科医が鎮痛剤を少量分割投与して、ローディングを済ませることも多いです。
このローディングによって血中濃度を、「鎮痛時の最小濃度」以上として鎮痛を得た後、鎮痛剤の血中濃度が時間とともに低下して痛みが現れたときに、少量の鎮痛剤を素早く投与することで血中濃度を「最小濃度」以上にします。
これを繰り返すことで鎮痛に必要な血中濃度を維持し、鎮痛状態を続けることができます(図5)。

図5:ローディング投与による個人差への対応

図5:ローディング投与による個人差への対応

これがiv-PCAで鎮痛状態を維持できる原理なんですね~。

このように鎮痛剤の投与量を調節することを「タイトレーション」といいます(図6)。患者さんが鎮痛薬を繰り返し自己投与するPCAはタイトレーションのひとつであり、「自分でタイトレーションする方法」になります。
また、PCAポンプにはボーラス投与量や回数が表示されます。それを看護師さんたちが記録し、患者さんの要求が多ければベース速度やボーラス量を増やし、逆に要求が少ない場合はベース速度等を減らします。
もちろん看護師さんはボーラス以外にも患者さんの痛みの程度や副作用も評価して、患者さんの個人差や術後の回復に合わせてタイトレーションします。これもPCAの利点です。

術後痛チェックリストの一例( 広島大学病院「PCA チェックリスト」) はこちら

図6: タイトレーションの一例

図6: タイトレーションの一例

術後痛チェックリストに「ボーラス回数、疼痛評価、副作用評価」があるのは、そのためだったんですね。

術後痛チェックリストで看護師の皆さんが評価してくれるから、私たち麻酔科医は病棟回診で患者さんに適切な鎮痛法が提供できるんです。
先駆的な施設では、既に看護師さんが患者さんの状態に応じてタイトレーションを行っているところもあります。そうなるには、術後鎮痛法をもっと理解することが必要なので、一緒に勉強していきましょう!

よろしくお願いします。
ところで、患者さんにPCAの説明をするとき、どんな点に注意すればいいですか?

痛みが治まるまで鎮痛薬がローディングされ、かつ安全な投与量が設定されているので、「痛い!」と感じたら我慢せずにボタンを押すように説明して下さい。「痛くなり始めたら」でもいいです。PCAの1回投与量(ボーラス投与量)は、強い痛みを抑えるような量よりもかなり少ないので、強い痛みを感じてから、つまり血中オピオイド濃度がかなり下がってしまってからボーラス投与しても、十分に血中濃度が上昇せず、鎮痛が得られません。
また、患者さんからロックアウト時間中に「ポンプが動かない」と指摘されることがありますが、これは安全機能として必要なことだと説明して下さいね。それでも患者さんが痛みを訴える場合は、タイトレーションをやり直すなどが必要です。麻酔科医とも相談して下さいね。

PCAは優れた方法だと思うけど、
どんなことにも難点ってありますよね?

そうですね。大きく分けて2つあります。
1つは患者さんの指導です。患者さん自身が投与するので、痛いときには自分自身でボタンを押してもらうことが必要です。そのためには私たち麻酔科医も患者さんに説明しますが、患者さんを一番近くでケアしている看護師の皆さんが、「痛ければボタンを押す」ことを積極的に説明して下さい!
もう1つは使用する薬剤の副作用対策です。
これについては・・・次の機会にしましょう。