顧客レポート フットケア

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■ 下肢虚血を把握することの重要性

 四肢の進行性虚血性壊疽の発生率は、一般を1とすると糖尿病は1.63倍、非糖尿病透析で82.6倍、糖尿病透析では481.1倍に跳ね上がります。腎不全だけでもリスクは高まりますが、透析と糖尿病を合併した患者さんの場合は一段と危険率が高まります。また、透析や糖尿病に限らず、年齢や性別、脂質異常症、喫煙なども下肢虚血のリスクになります。
 私は山登りが趣味なので、フットケアを山に例えてみました(図1)。高尾山のような身近な山は、いわば基礎疾患のない人の足です。「快適に歩くこと」を目指せばよいでしょう。八ヶ岳のようなやや高い山は、筋骨格系に異常が見られる人の足です。「自分の足で歩き、走ること」を目指します。そして富士山のような険しい山は、糖尿病や腎不全など内科疾患や脈管系の異常を有する人の足です。「足を守り、歩行を守り、命を守ること」を目指します。
 患者さんのフットケアがどのような山登りになるのか、まずは現場で下肢虚血の有無や程度を評価する必要があります(図2)。視診では、足趾の毛の脱落、薄くテカテカした皮膚、皮下静脈の虚脱に着目します。左右の温度差は非常に大きなポイントで、左右差があれば足に何かが起きています。炎症が起きているのに皮膚温の上昇がないのは、Coldな炎症といって虚血のサインです。

■ 新たな指標としてのVAR index

 健常者では、臥位から立位や座位に体位変換すると、下肢皮膚の血流を自律的に減少させる循環調節機序が働きます。これをポケットLDFによって測定し、血流量の比を示した指標がVARindexです。VARindexが0.5を超えると病的な微小循環が存在します。また、臥位の皮膚血流量(RBF)が3未満か、VAR indexが7を超えると、重症虚血状態を示しています。
 健常者のVAR indexを示します(図3)。臥位になると、プラトーが出てきます。この流量が55.41mL/min。座位になると波形がすとんと落ちて、またプラトーになります。この流量が20.84mL/minで、両者の比をとるとVAR indexは0.38。健康的なきれいな波形です。足を垂らしてフリーな状態にすると、自律神経の働きできゅっと血管が締まって下肢の血流が減っています。
 こちらは血行再建直後ながらVAR indexが高値な症例です(図4)。81歳男性。太ももからひざ下にかけての病変部を血行再建し、術後1週間の測定結果です。臥位の血流量は3.37mL/minで、足を下げたら52.53mL/minまで増えました。虚血肢のある患者さんはよく足を下ろしますが、これは血流が増えて楽になることを知っているのでしょう。VAR indexは15.59 で急遽SPPを測定することになりました。すると虚血があり、循環器の専門病院に戻って再度血行再建を行うことになりました。

■ VAR indexの今後のビジョン

 VARindexが上昇すると考えられる病態は、おもに4つ(図5)。虚血で流量が少ない場合と、高度の静脈うっ滞で流量が多い場合。静脈うっ滞の人が足を垂らすと、VARindexが100くらいになることもあります。糖尿病では静的なA-Vシャントが増えることが関係しています。自律神経障害を起こすものとしては、脊柱管狭窄症が挙げられます。脊柱管狭窄症で下垂足になるようなときは、自律神経障害もかなり進行しています。ただし、自律神経障害だけではVARindexが10や20を超えない印象があります。
 VARindex+αの可能性を考えてみました(図6)。虚血が疑わしいときは、SPPやTcPO2を測定し、下肢救済連携施設に紹介します。静脈うっ滞が疑われるときは、下肢静脈エコーを測り、下肢静脈を評価できる施設に紹介します。自律神経障害のときは、神経内科でコントロールしてもらう、あるいは整形外科で原因疾患を診てもらいます。今後はVARindexを含めた血流測定を組み合わせて、フットケアのフローチャートをつくりたいと考えています。Mt.Footcareの図(スライド1)に戻ると、VARindexは山登りのコンパスになる可能性があります。楽しみながら計測し、地図をつくっていきたいと思います。

■ ポケットLDFでVAR indexを測定

 日頃フットケアにかかわる際には必ず動脈触知・皮膚温度・発毛の状態など、まず簡易的に下肢虚血の有無を評価します。虚血が疑われる際には必要に応じてABI(上腕・下肢血圧比)やSPP(皮膚潅流圧測定)などの検査を行います。これらの検査機器はどの医療施設にも配置されているものではなく、測定したい時に機器が無いという事もあります。ABI測定でドプラ法ではなくオシロメトリック法では簡便だけど具体的な狭窄血管が分からない事や糖尿病・透析患者では血管の石灰化が著明なために足関節血圧が高値を示す事がある事、そしてシャント肢の測定をしないので左右差が分からないなどの問題点があります。SPPでは虚血肢への駆血で痛みを感じたり測定時間の問題、不随意運動で測れない場合があるなどを経験します。
 これに対してポケットLDFは非侵襲的に皮膚表面下の微小循環の血液量を短時間で簡便に測定することができます。以下にVARindexの測定方法を示しました(図1〜4)。

■ 測定結果と便利な機能

 下肢皮膚血流量が減少する生体反応(VAR)は、安静時皮膚血流量(RBF)と起坐位へ体位変換後血流量(SBF)を測定して、求めることができます。VAR indexが0.5を超える場合は、病的な微小循環を疑うことが可能になります(図5)。
 血流測定デュアルモニタでは、2機のポケットLDFを用いて両足の血流を同時に測定することができます。定期的な観察を続け、左右差の変化があればVAR indexを測定します(図6)。
 当院ではアプリ「JOIN」を使用して、施設入所CLTI患者の訪問診療・看護との連携が始まっています。今後は、在宅診療・看護でもVAR indexを測定できる可能性が広がっています(図7)。

■ フットケアの現場より思うこと

 フットケアは、ただ足の爪を切る、削るという行為だけではありません。ケアの前に虚血肢の色はどうか、足趾の毛はどうか、左右の温度差はないかなど、足の特徴を見て血流を評価することが、とても大切です。しかし、多忙な業務のなか、全員に精密な検査を行うのは難しいのが現状です。  ポケットLDFを用いたVAR indexは簡便に末梢血流量を数値化し、波形を見ることで虚血を予測することができます。簡便な検査を日常業務に取り入れることで、患者のQOL向上やADL維持につなげたいと思います。