顧客レポート フットケア

日本フットケア・足病医学会年次学術集会共催学術セミナー

■ 下肢虚血性病変の疫学

 末梢動脈疾患(PAD)は、フットケア領域では下肢虚血性病変を指す。世界では、透析患者の15〜20%はPADを有すると報告されている。透析患者は糖尿病の有無にかかわらずPADの独立した危険因子であるため、心血管障害の評価が必要とされ、高度の石灰化病変を伴う頻度が高いので、早期発見につとめることが重要である。
 重症下肢虚血(CLI)は、PADの一つの症状であり、急性動脈閉塞により安静時疼痛、虚血に起因する皮膚障害(潰瘍・壊疽など)を呈する。その前段階として、下肢虚血、組織欠損、神経障害、感染といった肢切断リスクを持ち、治療介入が必要な下肢の総称として、包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)という考え方がある。
 アメリカ血管外科学会(SVS)が提唱するWlfi分類は、CLTIを創傷(W)、虚血(I)、感染(fi)の程度で、1年後の切断リスクをステージ1から5までの5段階に分類する。このうち「虚血グレードが2以下で創傷のあるものをCLI」と定義している。また、感染をコントロール可能でも、虚血グレード1から徐々に切断リスクは高まるとされている。Wlfi分類でステージ1〜2の段階から危険を察知して、将来の切断リスクを回避できるようにつとめる必要がある。

■ レーザードップラー血流計の開発の経緯

 糖尿病性自律神経失調症などの生理機能障害のうち、起立性低血圧は立ち上がって15秒以内に発生するため、従来のカフ式の間歇的な血圧計では十分に検知できないという問題点があった。このため、連続的に皮膚毛細血管の赤血球を計測することにより、簡便かつ鋭敏に血流変化を察知するデバイスの必要性が認識されていた。既出のデバイスとして、SPPやtcPO2の機器があるが、どちらも大型で高価であり、クリニックで気軽に購入できるものではない。
 レーザードップラー血流計(LDF)は、レーザー技術を用いて血流速度を非観血的に測定して、血流量、振動幅、赤血球の振動回数を評価する。血流障害(血栓、狭窄、機械的損傷等)を同定し、その障害の程度を評価することを支援する装置である。
 先行して、LDFを使い、糖尿病性末梢神経症の自律神経失調を鋭敏に検出する研究がされている。被検者はセンサーを耳たぶにつけ、座った状態からパッと立ち上がる。 正常の人では、血流量が40EBF(a.u.)から一時的に下がるものの10秒以内に元に戻る。末梢神経症が少しある人は、血流量が20 EBF(a.u.)から低下して戻るまでに20秒ほどかかる。重症の末梢神経症になると、血流量が低下して一桁になり回復しないという報告がされている。

※LDFと記載している箇所は、Laser Doppler Flowmetry(レーザードップラー血流計)の総称です。

■ 下肢虚血性病変への応用

 先行研究は耳で測定したが、今回の研究では下肢虚血性病変に応用した。早期発見ツールとして患者への負担が少なく、皮下血流量を測定できるポケットLDF使用により、血流異常値検出を試みた。対象としたのは、外来と入院の透析患者170例。2017年からほぼ2年間、ポケットLDFを使用し、足の表裏、左右の4点を計測した。透析室内温度は25度にそろえた。
 PAD診断の定義は、ABIが0.9未満、SPPが50未満をカットオフ値とした。フォンテインⅡ度で間歇性跛行が少しみられる、もしくは足病変がある、いずれかを満たす患者をPADありと定義した。
 グラフは、フォンテイン分類別のSPPとポケットLDFの計測結果である。SPPではⅢ度で50以下に有意に落ちている。同じ患者群をポケットLDFで測定すると、Ⅱ度以降は20以下にがくんと落ちた。フォンテイン分類Ⅱ度よりポケットLDFは19ml/minと20ml/minを下回っていることから、早期に異常を検出できると考えた。
 透析患者では、透析開始から30分以内の時点でポケットLDFを用いて血流量を短時間で計測し、足底での血流量20ml/min以下の値は、血流異常の早期発見につながり、介入の指標になる。
 PAD下肢虚血性疾患については、CLI重症下肢虚血に陥る前に、CLTI包括的高度慢性下肢虚血の早期での発見を可能にする。

■ はじめに

 2016年の診療報酬改定により「下肢末梢動脈疾患指導管理加算」が算定可能となった。同加算は透析患者における下肢末梢動脈疾患のスクリーニング、透析施設と専門医療機関との連携強化を目的にしている。同疾患を早期発見し、治療やケアを早期に開始することは、下肢切断リスク回避につながる。
 当院では、全透析患者に月1回のフットチェック、年1回のSPP測定を実施。今回、下肢血流測定に「ポケットLDF」を導入したので紹介する。

■ 使用症例①

下肢病変歴
 1年前から左第1趾に5mm大の鶏眼を認め、皮膚科受診。右足底の痛みを訴えたため観察したところ、潰瘍形成と下肢の冷感、指先の暗紫色が発見された。アスピリン内服、疼痛時はカロナール内服。足全体ユベラ外用+足浴、潰瘍部はゲーベンへ変更、血痂除去後はユーバスタへ。
 皮膚科受診に加え、当院フットケア外来受診。右下肢のSPP測定は、不随意運動のため測定不能。2020年9月のLDF値は、右下肢平均16.1ml/min、左21.3ml/minと低値を示した。下肢エコーでは、腸骨から浅大腿・膝窩動脈領域の血流は問題なし。皮膚科処置を継続。

 その後 
 重症下肢虚血の診断で、専門病院へ紹介入院。右下肢のカテーテル治療を実施、冠動脈の狭窄でステント留置など循環器治療が行われた。

■ 使用症例②

下肢病変歴
 左足底の尋常性疣贅と胼胝で2週間ごとに皮膚科受診。液体窒素やスピール膏などの治療を長期間継続中。フットチェックでは足背動脈の触知は良好、冷感やむずむず感などの自覚症状はない。下肢の不随意運動が強く、2019年12月以降、約2年間SPP測定が困難な状況が続いている。
 グラフのSPP値は、不随意運動のため参考値。LDF値は右下肢平均44.6ml/min、左下肢平均18.5ml/minで、左下肢は低値を示していた。下肢アンギオCTを行ったところ、左腸骨動脈と左膝窩動脈の狭窄があり、膝下の動脈の途絶が認められた。

 その後 
 現在、フットケア外来を予約、受診待ちとなっている。

■ 考察/まとめ

 重症下肢虚血は短期間で症状が悪化するため、迅速な観察・診断が求められる。ポケットLDFは透析スタッフで測定可能であり、迅速簡便に下肢血流量を測定でき、下肢虚血の早期診断に有用である。透析患者においては、血流量20ml/min以下は血流異常を示している可能性が高く、客観的指標として有用で、フットケア外来受診を勧める目安となる。