JMS情報誌「SIESTA」インタビュー

撮影:(株)エスエス 走出直道

神奈川県海老名市

海老名総合病院

「救急こそが医療の原点」という信念のもと、今から50年ほど前に若き医師4人が埼玉県北葛飾郡に医療法人社団仁愛会(現社会医療法人ジャパンメディカルアライアンス)東埼玉病院(現東埼玉総合病院)を開院した。その10年後の1983年に同法人が神奈川県海老名市につくったのが海老名総合病院(479床)だ。創業者の信念は受け継がれ、地域の基幹病院として急性期医療を支えている。

■ 新棟完成を機に医師を増員し集中診療を充実

左から)病院長 小林智範氏、看護部長 小谷文恵氏
 神奈川県県央医療圏(海老名市、座間市、綾瀬市)はかつて県域で唯一、救命救急センター未設置のエリアだった。それを解消すべく2017年海老名総合病院が救命救急センターを開設した。その当時から続く合言葉が「断らない救急」だ。
「この地域は夜間、休日帯に人を配置できる医療機関が少ない現状があります。もしその時間帯に脳血管疾患や心臓疾患のような一刻も早い治療が必要になったとき、遠方へ搬送していては間に合いません。それを避けるには当院が地域の救急医療の入口としての責務を果たすべきと考えています」と語るのは同病院長の小林智範氏だ。同氏自身、脳神経外科医として脳卒中をはじめとする救急医療に携わってきた。
 同病院救命救急センター開設の初年度から8,000件を超える救急搬送を受け入れ、その後も増加していった。それとともに集中治療を要する重症度の高い患者も急増してきた。
 同病院は2023年新棟西館を増築。これには建物の老朽化という理由もさることながら、急性期医療をより高度化させていく必要性があった。新棟完成を機に、それまでの救急科を救急集中治療科と改称し、集中治療に特化した医師を増員して体制を強化した。現在、救急科指導医5名、救急科専門医14名、集中治療専門医4名、外傷専門医3名、精神保健指定医1名の計18名が24時間・365日常時配置されている。また、ICUこそ10床とそれまでと変わらないが、HCUは4床から8床に、SCUは3床から6床、EHCUは20床から30床に拡充させ、それらを新棟西館の2階に集中させることで動線の短縮化を図った。
 夜間や休日帯に関しては、救急集中治療科の医師に加え、脳外科、循環器、整形、内科、産科、日によっては小児科、さらには緊急手術に対応できるように麻酔科の医師も当直にあたる。「ここ2年連続で年間1万台を超える救急車を受け入れています。中でも多いのが脳循環器領域の患者さんです。言い換えれば、その診療に緊急対応できることが当院の強みとなっています」(小林氏)

■ 人材教育に注力することが人材確保につながる

 多くの医療機関が頭を悩ましている課題の一つに人材の確保がある。医師について小林氏は「当院では救急医療や総合診療など横断的に患者さんを診る部門に力を入れていて、そこでの教育体制や診療体制が評価されたのでしょう。初期研修のマッチング応募が非常に多く来ています。臨床研修が終わってもそのまま当院での就職を希望する医師も結構多いです」と喜ぶ。看護師に関しても「毎年、55名ほどの新入が入ってきますが、1年目の離職者はほとんどいません。また、子育て中の職員に対しても、育児短時間勤務制度などの働き方の選択肢を増やすことで、毎年20名以上の看護師が育休から復職しており、家庭と仕事を両立しやすい環境が整っています」と看護部長の小谷文恵氏は説明する。
 同病院がある程度の人材確保ができている背景に充実した人材教育がある。「診療報酬の縛りがある以上、スタッフの待遇を金銭面で大きく上げることは難しい。現状で病院側ができることは、将来どうなりたいかを吸い上げ、そのスタッフが望む方向に進めるように最大限サポートすることです。そのために重要になってくるのが教育です」と小林氏。
 同病院では2年前に全職員を対象とした人材教育センターを立ち上げた。臨床研修医や専攻医の研修環境を整えるとともに、医師のサブスペシャリティ習得などに関してサポートしていくことを目的としている。また、看護部では日本看護協会版クリニカルラダーをベースに看護部教育プログラムを作成している。「教育担当の副部長が年間スケジュールを立て、病棟科長も巻き込んで研修を行っています。多くの医療施設で行われている1年目、3年目の研修はもちろんのこと、それら以外にも研修が用意されていて看護力を着実に高めていくことができます」(小谷氏)。

看護部ではパートナーシップナーシングシステムを取り入れている
 看護部についてさらにいえば、パートナーシップナーシングシステム(PNS)を取り入れていることも細かな教育や離職防止につながっている。PNSは2人の看護師がパートナーとなり、お互いの看護経験や知識・技術を補完し合って看護を提供する体制のこと。PNSのもとでは看護師一人に責任がのしかかることはない。わからないことや不安、悩みなどをパートナーなら相談しやすい。
 認定看護師などの資格取得を希望するスタッフには、奨学金などの支援体制が整えられている。現在、集中ケア認定看護師と救急看護認定看護師を中心に16名の認定看護師が誕生している。「私どもの法人は、当院のそばに大型診療所の海老名メディカルプラザや介護老人保健施設、近隣の座間市に療養病棟やリハビリ病棟、地域包括ケア病棟などがある座間総合病院などを擁しています。各自のライフステージやニーズに合わせて、法人内で部署異動が可能です。スタッフにはこの地域でできるだけ長く働いてほしいと思っています」と小林氏は力を込める。

■ コマンドセンター導入でスタッフのマインドが変化

(上)スタッフコアラウンジ (下)スタッフステーション 撮影:(株)エスエス 走出直道
「断らない救急」を実現するにはベッドをいかに管理するかが鍵になる。また、ベッドの稼働率を上げることは経営に大きなプラスをもたらす。
 同病院では新棟の西館完成とともにコマンドセンターと呼ばれるベッドコントロールシステムを導入した。現在、患者サポートセンターが中心となってベッドコントロールを行っている。
 コマンドセンターでは、患者数とベッドの空き状況や空床の男女比、退院阻害要因などがリアルタイムで大きなパネルに映し出される。「どれくらいベッドに余力があるのか、その患者さんがいつ退院になるのかなどがリアルタイムで可視化されます。それを関係スタッフが共有することで無駄な空床の減少につながっています」と小林氏は言い、次のような例を挙げる。「入院が必要な患者さんがいるとします。調べるとベッドが空いていない。しかし30分後には退院する患者さんがいてベッドが空く。以前は、ベッドが空いていないからと他院に入院をお願いすることもありました。ベッドコントロールが入ってからは、そのようなケースはほとんどなくなりました」。
 かつては病棟管理者が集まって各病棟の空床や入院予定などを報告し、それをホワイトボードに書き込んで検討していたが、導入後は空床報告などの必要がなくなり、迅速にベッドコントロールができるようになった。これにより業務が大幅に効率化した。
 さらに、コマンドセンターの導入は思わぬ副次的効果をもたらした。小林氏は「病院側としては、むしろこちらの効果のほうが大きい」と歓迎し、こう続ける。「スタッフたちにエコノミックなマインドが浸透したことです。例えば、循環器の病棟には循環器疾患の患者さんしか入院を受け入れないことがかつてはよく見られました。それが今では医療安全上の問題がない限り、ベッドが空いていれば他科の患者さんも受け入れるようになりました」。
 看護部も同様だ。「看護科長が、病院の運営会議で病床稼働率も含め、自分の病棟をどのように運営しているかを発表します。稼働率が上がらない場合には、どうすれば改善できるかを考える視点を持つようになりました」(小谷氏)
 こうした結果、コマンドセンター導入後は新規入院患者数、病床稼働率ともにアップした。小林氏は「スタッフにさまざまなかたちで還元し、将来的な設備投資を続けていくだけの利益を出さなければ病院そのものの存続が危うくなります。スタッフ全員がエコノミックな意識をもってくれていることは病院にとって大きな力になります」と強調する。

コマンドセンター

■ 地域医療支援病院として地域医療機関と連携し地域医療を支える

 同病院は3棟からなる。一つは既述した新棟西館、残り2棟は受付や薬剤部、管理部門などが入る本館と、透析室やマタニティセンター外来のある東館だ。そのうち、本館は建て替え時期を迎えている。小林氏は「昨今の建築費高騰があるので明言はできないが」と断ったうえで、「できれば5年を目処に建て替えたい」と話す。「そのときには外来の在り方も考え直したい」。
 同院は2008年、県央医療圏で初めての地域医療支援病院になって以降、地域医療機関と連携して切れ目のない医療を提供してきた。今後、看護師や医療事務などの人材不足が深刻化していくと予想されている。少ない医療リソースで多くの患者を診療するには同病院は入院医療に特化し、一般診療は他の医療機関に任せることが地域医療を維持する最良策と小林氏は考えている。「そのためにも、地域の医療機関とこれまで以上に連携を強めていきたい」と落ち着いた口調で話す。
 2023年春、手術支援ロボットダヴィンチが導入され、今年1月からハイブリッド手術室が稼働しはじめた。このハイブリッド手術室の設置にあたっては、費用の一部をクラウドファンディングで集めた。地域の医療機関だけでなく、多くの地域住民が協力し、目標額の1千万円を達成。そのお披露目会には大勢の人が訪れ、ハイブリッド手術室での機器の説明などに耳を傾けた。
「当院はまだ発展途上にあります。これからも地域に親しまれ、安心して受診していだける病院づくりをしていきます」。小林氏と小谷氏は力強く語った。

手術支援ロボット「ダヴィンチ」
ペイシェントカート
ハイブリッド手術室

取材・文/荻 和子 取材撮影/轟 美津子
施設写真提供/海老名総合病院

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