JMS情報誌「SIESTA」インタビュー

(イメージ図)

大阪府大阪市

社会医療法人大阪国際メディカル
&サイエンスセンター
大阪けいさつ病院

 いま全国の医療関係者から注目を浴びている病院といえば2025年1月に新築移転した「大阪けいさつ病院」ではないだろうか。JR大阪環状線桃谷駅から徒歩5分、地下1階、地上8階建て、650床の急性期病院だ。最先端を誇るハードは言うに及ばず、ソフトの充実も目を見張るものがある。この新病院プロジェクトを指揮した院長の澤芳樹氏に、いまこの瞬間も着々と進んでいる、未来を見据えた病院づくりについて伺った。

■ 新築移転を機に法人名や表記名を変更

院長 澤 芳樹 氏
 大阪けいさつ病院の旧名称は大阪警察病院。創立は1937年というから80年以上の歴史をもつ。開院以来、病院は建て替えを繰り返していたが、1993年に竣工した病院の老朽化が目立つようになり、病院の建て直しが検討された。その際に建て替え場所の候補となったのが同病院から500mほどの距離にあり、大阪警察病院の約2倍の土地面積を持つNTT西日本大阪病院だった。2019年、大阪警察病院とNTT西日本大阪病院が統合し、NTT西日本大阪は第二大阪警察病院となった。
 新病院は第二大阪警察病院の敷地を活用して建てられた。
 移転に先立ち、2024年7月に法人名をそれまでの「警和会」から「大阪国際メディカル&サイエンスセンター」に改称、病院名の表記も「大阪けいさつ病院」に変更した。
 2019年に第8代院長に就任した大阪大学医学部名誉教授である澤芳樹氏は病院名の表記変更について「職員の『警察愛』はとても強く、地域の人々にも『警察病院』として長年慣れ親しまれてきました。また、『警察病院』のサウンドは大阪ではとても高いブランドを誇っています。しかし『警察』と表記すると、他地域の人から警察官だけが利用できる病院と誤解されることがあります。それでひらがな表記にしました」と説明する。
 法人名の改称には「国際的な医療や研究に取り組んでいることを国内外に示すため」と澤氏は言い、「私は40年間阪大に在籍し、サイエンスの重要性を十分に知っています。ですから法人名にぜひサイエンスを入れたかった」と付け加える。
 併せてロゴも一新した。法人名の英語表記の頭文字の一部を取ったOIMをおしゃれにデザイン。特に“M”の部分は、人と人が手を握り合い、やさしく温かみのあるイメージになっている。
 新たな理念も掲げた。「いのち輝くみらいに貢献する」。澤氏は「建物の耐用年数は40~50年といわれます。40年後、50年後も輝き続ける病院でありたい」と理念への思いを語る。

■ 最先端のスマートホスピタルを実現

世界初となる天井照明型手術室「オペルミ®」での第1例目の手術。
執刀は心臓血管外科部長の秦雅寿氏。
 大阪けいさつ病院(以下、けいさつ病院)の理念実現のために打ち出されたのが最先端の「スマートホスピタル」だ。
 澤氏は「現時点での可能な限りのスマート化を図りながら、それを進化させていかないと時代遅れになる」と話す。
 5G回線を完備し、従来のPHSを最新機種のiPhoneに切り替え、1,800人すべての職員に貸与した。これほどの規模でのiPhone導入は国内初だ。医師はiPhoneからカルテの閲覧や画像の確認が、看護師はカルテ入力などができる。「一番喜んでいるのは看護師です。これまで医師とコミュニケーションを取ろうとしても医師がPHSに出られないことが多々ありました。iPhoneであればチャット機能を使えるので連絡がとりやすくなったと好評です」と澤氏は笑みをこぼす。
 患者に対しても、有料道路における自動料金支払いシステム・ETCのように、受付や予約、会計をスムーズにできるアプリを導入し、待ち時間の大幅削減を目指している。また、有料(500円/月)ではあるが、検査データや処方データを患者自身のスマートフォンで見られるサービスもスタートさせた。
 データ管理にも力を入れている。「病院にある患者さんデータはいわば赤信号。人間ドックや健康診断などで得られるデータは青信号あるいは黄色信号です。赤信号と青信号のデータを比べて黄色信号のデジタルマーカーを見つける研究開発に取り組んでいます」。
 この研究開発の拠点となるのが2023年に開設された臨床医学研究所だ。ここは澤氏がこだわった“サイエンス”を追求する場でもある。「公正取引協議会などの観点から寄付ではなく企業との共同研究を推進しています。治験も今12件ほど実施していますし、論文や学会発表なども積極的に行っています。こうした活動は当院のブランドを一層高めると確信しています」と意気込む。

■ 最新の医療設備とトップクラスの医療スタッフ

手術支援ロボットの最新機種、単孔式の「ダヴィンチSP」が導入された。
 新病院オープンに合わせて最新の医療設備が導入された。移転前から2台の手術支援ロボット・ダビンチXiが備わっていたが、今回新たに大阪エリアで初となる「ダビンチSP」が加わった。従来型のダビンチXiが複数の創から手術を行うのに対し、ダビンチSPは1カ所のみの単孔式で、患者の負担軽減や合併症の減少、在院日数の短縮などにつながると期待されている。
 手術室は以前より5室増えて16室に増室。うち3室はハイブリッド手術室だ。集中治療室も、ICU28床、HCU28床、SCU9床の計65床と、かつての48床から大幅に増やし、24時間体制で高度集中治療患者の診療にあたっている。
 これまでも3次救急病院としての役割を果たしてきたが、キャパシティの問題もあり、年間の応需率は60%程度、救急車搬送件数は6,500件程度にとどまっていた。今回キャパシティが大きくなったことで1万件に増やせると澤氏は見込んでいる。
 こうしたハードの拡充に加え、ソフト、特に人材面においての充実ぶりも際立っている。例えばドクター。胃がんのロボット手術を大阪で一番多く執刀している大森健氏。彼は今年1月に日本初となるダビンチSPによる胃がん手術を行った。心臓外科には、ドイツで15年間活躍していた秦雅寿氏、日本で初めて大動脈解離にステントグラフト治療を施行した心臓血管外科の倉谷徹氏、1,000件にも及ぶカテーテル治療の実績を持つ循環器内科医の飯田修氏等々、そうそうたる医師が揃っている。「すごい先輩がいると大人気で、今年は13人の枠に120人の研修医の応募がありました。当病院はいわば野戦病院で非常にハード。それでも頑張ってやりたいという人が来てくれるのでマッチング率が高い」と澤氏は喜ぶ。
 ドクターだけでなく、看護師も同病院のスピリットを持った人材が毎年多く入職してくる。同病院附属の看護専門学校長も務める澤氏は「医療看護の知識や技術はもちろん、アントレプレナーシップ(起業家)教育を導入し、経営センスをもっていかに無駄を省くかといった視点も備える看護師育成をしています」(澤氏)
 このベースになっているのは、「ジャパン・バイオデザイン・プログラム」だ。スタンフォード大学と日本の3大学(大阪大学・東京大学・東北大学)がパートナーシップを締結し、フェローシップや学生向けコースなどを提供し、医療機器イノベーションをけん引する人材を育成していくというもの。この推進メンバーの一人が澤氏だ。
 「当院の看護師はやる気満々で非常に優秀」と澤氏の評価は高い。

■ 3次救急病院の本務に専心するため在院日数を短縮化

 病院移転時に入院患者を100人以下に減らした。一方、新病院の集中治療室は65床もある。「内心、増やしすぎたかなとも思いました」と明かす澤氏だが、まったくの杞憂だった。開院後1週間でICUやSCUはほぼいっぱいになり、2週間で600床が満床になったのだ。手術室も、予定手術が毎日30件あるなどフル回転している。
 「緊急手術が必要な患者さんは原則、すべて受け入れています。もし当病院が断ったら、転院搬送中に悪化するかもしれない、転院先はあるだろうかなど考えたら、とても断ることはできません」
 緊急患者を受け入れ続けるためには、治療が終わり、他の一般病院でも対応可能と判断された患者をいかに速やかに“下り搬送”できるかが鍵となる。「当病院でしか助けられない患者さんを診るのが3次救急病院の本務。それに専念するために在院日数をできるだけ短くし、ベッドの回転を早めています」と澤氏。
 この方針を司るのがコマンドセンターだ。そこでは、常に病床と手術室の空き状態を把握し、地域の医療機関からの依頼受け入れの判断を行い返答するとともに、それを担当医師に伝えるなどトップダウン方式で活動している。
 澤氏はコマンドセンターの役目を湯船にはる湯に例えてこう説明する。「湯を常に90%くらい貯めておこうとしたら、蛇口からの湯量と排水口から出る湯量をうまくコントロールする必要があります。湯量加減の調整役がまさにコマンドセンターです」。
 コマンドセンターは新病院に移る3カ月ほど前から動き始めた。その効果は、今、病床稼働率100%前後、利用率90%という数字に表れている。
 「事務方も含め、職員一人ひとりがやるべきミッションをよく理解してくれています。箱(建物)がいくら大きくきれいになっても、それだけでは病院のさまざまな問題を解決できません。最終的には“人”が解決するのです」

病室
スタッフルーム
病棟中庭

■ 2027年に地域住民が集えるエントランス棟が完成予定

 澤氏は「病院の建て替えは大きなリスクでもありチャンスでもある」と語る。リスクは建て替えにかかる莫大な費用や患者が減る危険性、一方でチャンスは5G導入などドラマティックなことができること。「これほどまでに費用をかけて経営が成り立つのか、我々の施設は一つの実験です。だからこそ今、世間が注目するのです」。
 今回、オープンした建物で完成ではない。これから2期工事に入り、2027年にエントランス棟と立体駐車場が完成する予定だ。
 エントランス棟は緑豊かな木々に囲まれ、池に浮かぶような建物が設計デザインされている。1、2階は吹き抜けでカフェやホールのある、地域の人々が集える場所に、そして屋上には散策も楽しめる庭園が設けられる。「患者さんだけでなく、職員も大事にしていきたい」との澤氏の言葉どおり、この屋上庭園は本館の職員食堂とつながっていて、職員たちはオープンエアで食事を楽しめるという粋な計らいがされている。ちなみに、職員食堂ではハンバーグが乗ったスパイシーな「院長カレー」が600円で提供され、澤氏の言葉を借りれば、“めっちゃ人気”だ。
 澤氏は言う。「けいさつ病院はかつてない理想的な病院になりつつあります。私たちにはゴールはありません。時代や考え方は常に変化します。それに合わせて病院も柔軟に進化していきます。けいさつ病院はこれからも輝き続けます」。
 大阪から医療の新時代が始まっている。

エントランス棟1階のカフェ(イメージ図)
職員食堂名物「院長カレー」

取材・文/荻 和子 撮影/轟 美津子
写真提供/大阪けいさつ病院

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