JMS情報誌「SIESTA」インタビュー

広島県広島市

広島市立広島市民病院

 広島県庁の前、ひろしま美術館やバスセンターにも近い場所に建つ広島市立広島市民病院。困ったときの頼りになる存在として市民たちから厚い信頼を得ている。同病院の基本理念は「患者さんと協働して、心のこもった、安全で質の高い医療を行う」。設立以来、この理念が実践され続けてきた証にほかならない。

■ 総手術数や全身麻酔手術数は全国でトップクラス

外科主任部長 白川靖博 氏
病院長 秀 道広 氏
 広島市立広島市民病院(以下、市民病院)の設立は原爆の爪痕がまだ至るところに残る1952年。診療科4科、病床数89床の社会保険病院としてスタートした。2003年、社会保険病院としての経営受託が解除され、名称も社会保険広島市民病院から現在の広島市立広島市民病院に改められた。設立以来、診療科目や病床数の拡充、施設の整備などを積極的に図り、現在は県内最大級の病床数(743床)を有し、診療科も36科を揃える中核病院として地域医療の中心的存在になっている。
 2021年、広島大学から同病院に院長として着任した秀ひで道広氏は患者の多さと疾患の多様さに驚くとともに、改めて同病院が市中病院として重要な役割を果たしてきたことを再認識したという。
 「当病院は先端医療を提供し続けてきましたが、中でもがん、救急医療、脳血管疾患や心臓疾患などの循環器、周産期・新生児医療に関しては常に全国トップレベルの質の高さを誇っています」と秀氏は話す。
 特にがんでは、胃がんや食道がん、乳がん、肺がんなどの手術数は毎年全国のほぼトップテンに入る。がんを中心に1万件以上であった同院の年間手術件数はコロナ禍で一時1万件を切ったが、最近はほぼコロナ禍前の状況に戻りつつある。そしてその7割は低侵襲の内視鏡手術だ。2023年には手術ロボットのダ・ヴィンチを2台に増設し、がんの手術を中心に公的保険が適応となる疾患の手術は全てダ・ヴィンチで対応出来る体制となっており、その数は年間500件弱にのぼっている。これらを実現できているのは専門医の多さだ。「指導医クラスの医師のほとんどが日本内視鏡外科学会の技術認定医ですし、ロボット支援手術プロクターの資格取得者も10名近くいます」と外科主任部長の白川靖博氏は言う。
 同病院外科のもう一つの特徴として、白川氏は全身麻酔手術の多さを挙げる。「大阪以西で1番、全国でも9番目ぐらいにランクインしています。外科医が約25名、麻酔科医が約30名揃っていて、ICUもあり、夜間対応も可能というソフトとハードの双方が充実しているからです」とその理由を説明する。
 1959年、広島県下で最初の心臓手術が同病院の心臓血管外科で施行されて以来、同病院は広島医療圏の心臓疾患治療を支えてきたといっても過言ではない。弁膜症治療ではTAVI(経皮的大動脈弁移植術)による治療数が中四国で一番多い。僧帽弁や大動脈弁の手術では右肋間から小さい傷で行うMICS(低侵襲心臓手術)を2020年から本格導入している。
 ところで、がん手術件数が多い医療施設は待機手術の割合が非常に高く、逆に緊急手術は低いのが一般的だ。しかし同病院は、その割合は7対3と、緊急手術の割合が思いのほか高い。「当病院への救急搬送が市内で最も多く、しかもウォークイン患者も引き受けています。スタッフ全員が外科分野の最後の砦と自負して取り組んでいます」(白川氏)。
 冒頭で秀氏も語っていたように、同病院は地域の救急医療を支える中心的存在になっている。

ハイブリッド手術

■ 搬送困難事案の最終受け入れ医療機関に

救命救急センター主任部長
西岡健司 氏
 1977年、厚生省(当時)より優先指定を受けた全国4病院の一つとして心臓疾患と脳血管疾患の治療を主な目的とした救命救急センター(現在24床)が同病院に開設された。2006年には救急科(ER)が設置され、1次から3次までの初療を行う北米型ERの救急医療体制が整備された。
 「救命救急センター開設時の目的は今も受け継がれ、心臓疾患と脳血管疾患の救急患者さんを断ることはほとんどなく、それぞれの専門医や救急看護師らと連携し、24時間365日体制で診ています」と話すのは救命救急センター主任部長の西岡健司氏だ。
 救急車の出動件数が増加し、患者の受け入れ医療機関が決まるまでに時間がかかる事案が増えていることから、広島市は救急医療コントロール機能の運営を始めた。受け入れ先の決まらない救急患者をいったん受け入れて、初期診療を行ったうえで必要に応じて支援医療機関へ転院させるというものだ。市の要請を受け、同病院は2011年より搬送困難事案の最終受け入れ医療機関となった。
 同病院への救急搬送数は年間7,000台余り、ウォークインも年間約2万人を数える。さらに高齢者の搬送も増えてきて、マンパワーは厳しい状況にある。「労働環境はできるだけ整えるようにしていますが、重症例でどうしても寝泊りが必要なこともあります。そういうことも厭わないやる気のあるレジデントたちが頑張ってくれています」と西岡氏は感謝する。
 脳血管疾患で救急搬送される患者の大半は脳卒中で、一刻も早く治療を始めることが重要だ。そこで2021年、救命救急センター内に脳卒中センターが設けられた。同センターは日本脳卒中学会により、24時間365日脳卒中患者を受け入れ、脳卒中診療担当医が速やかに診療を開始できる一次脳卒中センター(PSC)の、さらに核となるコア施設に認定されている。
 また、同センターでは自院で発症する脳卒中に対してプロトコールを作成し、迅速に脳卒中チームが対応できる体制を整えた。さらに他院で発症した脳卒中に対しても速やかな転院と治療が開始できるよう、2020年、「Stroke FastPassプロジェクト」を立ち上げた。プロジェクト参加病院は同センターが考案した「Stroke FastPass」を基に脳卒中が疑われるかどうかを判断。必要な場合は同センターですぐに治療を受けられるようにした。このプロジェクト導入前には発症から同センター到着まで4時間以内が47%だったのが、導入後は65%にアップするなど高い効果が得られている。

救命救急センター
脳卒中センターではチーム一丸となって迅速に対応する体制が組まれている

■ プレネイタルビジットやチーム医療で親子を支える

総合周産期母子医療センター長
西村 裕 氏
 総合周産期母子医療センターは広島県内に2施設あり、その一つが同病院に設けられている。
 同センターで最も多い入院患者は1,000g未満の超低出生体重児で、年間10~20名が入院している。「小児心臓外科専門医が複数いるため、先天性心疾患児の入院が多いことも大きな特徴」と同センター長の西村裕ゆたか氏は言う。
 近年の医療技術の発達はめざましく、昨今では胎児期に病気が診断されることがほとんどだ。出産後に親が初めて病気を知ると大きな精神的ショックを受ける。それを少しでも緩和するために同センターではプレネイタルビジット(出産前訪問)を行っている。「妊婦さんの病室に私たち医師が訪れ、赤ちゃんの病気や誕生後の治療や経過、成長に伴って予想される問題点などについて詳しく説明します」(西村氏)。ただ西村氏自身、出産前にこうしたことを伝えることが本当によいのか、長い間葛藤があったという。しかしプレネイタルビジットを行った母親にアンケートをとったところ、9割が事前に説明を聞いておいてよかったと回答した。西村氏は「一方的に説明するのではなく、妊婦さんの話をじっくり聞くことを心がけています」と語る。
 新生児がNICUに長期入院し母子分離を余儀なくされると、赤ちゃんへの愛情形成が難しく、退院後の育児困難や虐待につながる危険性がある。また、退院して在宅になっても医療的ケアが継続して必要になるケースもある。こういった妊娠、出産、育児に関するさまざまな不安をもつ妊婦や家族を支援するために周産期トータルサポートチームが活動している。医師や看護師、助産師だけでなく、必要に応じて院内の精神科医や臨床心理士、医療ソーシャルワーカーなどにより構成され、場合によっては行政や地域の開業医、訪問看護ステーションなども加わる。
 新生児が何らかの蘇生処置が必要な状況で生まれてきたとき、その場での処置が重要になることから、同センターは中国地域唯一の新生児蘇生法(NCPR)トレーニングサイトとして地域の医師や助産師などを対象に講習会を行っている。
 「講習会を始めて、5~6年後ぐらいから効果が出はじめ、『赤ちゃんの具合が悪いのですぐ来てください』という緊急電話は明らかに減少しました」と西村氏は喜ぶ。

周産期母子医療センター
ワークショップ形式のカンファレンス

■ 患者から多くの感謝という褒美をもらえる病院でありつづける

新旧の病棟を結ぶプロムナードには緑とアートがあふれる
 入院を必要とする患者をスムーズに受け入れるためには空床の確保が重要だ。しかし、各科の専門性やマンパワーなどの問題で、診療科による空床の発生と偏在が起き、入院を断らざるを得ないことが少なくない。これは病床稼働率の低下につながり、経営面からも望ましいとはいえない。
 こうした課題を抱えていた同病院は、その解決策として2024年5月、病床システム(E-BED)を立ち上げた。これにより各診療科の病床の状況や患者の入退院の情報を一カ所に集めて管理し、病床の効率運用を図った。スタートしてからまだ1年ほどだが、すでに病床の稼働率はかなり改善がみられている。秀氏は「特に近隣の病医院からの入院患者さんを断ることがかなり少なくなりました」と評価する。
 秀氏は着任時、「皆が生きる、皆が伸びる、そして皆が幸せになる」をモットーに掲げた。「“生きる”には、スタッフ一人ひとりの能力が生かされることも含まれています。スタッフの力が伸びれば病院の資源が大きくなり、良い医療を提供できる。そうなれば患者さんもスタッフも幸せになれます」とその意図を明かし、力を込めてこう言った。「医療者にとって最大の褒美は患者さんから感謝されること。これからも患者さんからたくさんの褒美を得られる病院であり続けたい」。

取材・文/荻 和子 撮影/轟 美津子
写真提供/広島市立広島市民病院

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