JMS情報誌「SIESTA」インタビュー

宮城県仙台市

仙台市立病院

 仙台市唯一の自治体立総合病院、仙台市立病院(仙台市太白区)。1930年の開院以来、市民の健康の増進と福祉の向上に努めてきた。2023年春、同病院事業管理者や病院長をはじめ、看護部や事務方も含めたトップのメンバーが刷新され、時代のニーズに応える新たな病院づくりが始まった。

■ 県内随一の救急車搬送件数

(左から)看護部長の佐々木裕子氏、病院事業
管理者の奥田光崇氏、院長の渡辺徹雄氏
 仙台市立病院が現在の地に新築移転したのは9年ほど前。それまでは今よりも北方、仙台駅寄りの若林区にあったが、1980年竣工の建物は老朽化が進み、耐震性にも問題があった。そこで新病院整備室が設置され、新病院建設のための準備が進められていたまさにそのとき、東日本大震災が起こった。
 「ボイラー煙突に大きな亀裂が入り、落下の危険性がありました。一部立ち入り禁止にして、なんとか診療を継続させました。改めて震災に強い病院の必要性を痛感しました」と振り返るのは、当時、外科医長として被災者の対応にあたり、この春、院長に就任した渡辺徹雄氏だ。
 震災を乗り越えた翌年、あすと長町地区での新病院建設が始まり、2年後の2014年11月1日、地下1階、地上10階、病床数525床(一般467、精神50、感染症8)の現病院が開院した。

広大なヘリポートからは、仙台の街並みが見渡せる
 公的病院である同院は、民間医療機関では採算性などが壁となって取り組みにくい救急医療や災害時における医療、周産期医療および小児救急医療、身体合併症精神科救急医療といった、いわゆる政策的医療を担う役割を持っており、中でも注力してきたのが救急医療だ。それは新病院にも引き継がれた。救命救急センターが1階フロアーの約4分の1という広いスペースを占めていることからもうかがえるように、救急車搬送件数は常に県内トップクラスで、2022年は県内最多の7,679台を記録。その中には小児救急や独居高齢者、精神疾患患者など、民間医療機関では対応が難しいケースも多く含まれている。

救命救急センター内部
 こうした受け入れを可能にしている背景には、職員の「市民のため」という意識の高さがあることは言うまでもないが、それに加えて救急に携わる職員の数の多さも見逃せない。「嬉しいことに救急専門医が増え、各科へのオンコール体制もかなり整っています。夜間救急については、内科系、外科系、小児科それぞれでベテラン医師、中堅医師、初期研修医の3名体制を組み、そこに産婦人科医を加えた計10名が当直しています。また救急入院患者がせん妄を示すなどした場合には、精神科医が治療に参加することもあります」と渡辺氏は話す。
 市消防局運営の仙台市救急ステーションが同センターに併設されていることも大きな特徴だ。ドクターカーが配置され、要請に応じて医師が救急車に同乗し、疾病者発生現場から速やかな診療を行っている。また、建物屋上のヘリポートを利用して、遠方の患者の受け入れも可能になっている。
 病院事業管理者の奥田光崇氏は「救急は市民にとってなくてはならないもの。今後も伸ばしていきたい」と語る。

救命救急センターCT室
救命救急センター手術室

■ 職員の意見を聞く取り組み

外来受付は、伊達政宗を象徴する
兜の三日月型のデザイン
 奥田氏と渡辺氏は就任以降、新たな取り組みを始めている。例えば、両氏は毎週、交互にイントラネットでさまざまな思いや考えを職員たちに語りかけるような文章で発信。また、朝一緒に院内をまわり、職員とも気軽に言葉を交わしている。
 これらの意図を奥田氏は「トップダウンではなく、職員の意見を広く聞きながら病院づくりを進めたいため」と説明する。
 また、両氏が折を見てさまざまな部署の若手・中堅職員と1時間ほどの面談を行っているのも、“聞く”取り組みの一つだ。
 「東北人はとても真面目で、黙々と自分の業務をこなすのですが、半面、自己主張をするのが苦手。ですから面談では何でもいいから思っていることをざっくばらんに話してくださいと伝えています。当直室のベッドやシャワーの使い勝手に関する意見など、私たちが知りえないようなことがたくさん出てきて、とても参考になります」(渡辺氏)
 同病院では医療の質向上に役立てるため、毎年クリニカルインディケーター(臨床指標)を測定しホームページで公開している。その中に職員を対象に「家族や友人に、当院を受診するよう勧めることができるかどうか」を5段階評価で調査した「職員満足度」の項目がある。残念ながら、結果は毎年30%前後と高くはない。その理由として、自分の所属以外の科が何をしているか知らないからではないかと考えた渡辺氏らは、各科で始める新たな診療、導入する技術を院内の医局会等で他科の医師に講話してもらったり、多職種カンファレンスへの参加を促したりするなど、診療科や部署、職種を超えて職員同士が理解を深める取り組みを推進している。

地元の小中学生からの、コロナ対応に奮戦した
職員一同へのメッセージ
 同病院で行われている多職種カンファレンスにはさまざまなものがあるが、中でも看護部では、副師長会で発案された「倫理カンファレンスシート」を使用した倫理カンファレンスを行っている。
 「部署の看護師が日頃の業務の中で、『ちょっと変じゃない?』と思ったことをテーマにして企画する多職種カンファレンスです」と話す看護部長の佐々木裕子氏は、こんな例を紹介した。
 以前は食べこぼしが多い患者をナースステーションに連れてきて食べさせていた。そのほうが、患者の食事の様子を見守りやすいとの考えからだ。しかし、それを家族が見たら不快な思いをするのではないか、と考えたナースが倫理カンファレンスのテーマにあげ、皆と話し合い、他の患者と同じように病室での食事に変更した。
 「2022年度に各部署で開催されたカンファレンスの内容を冊子にまとめて供覧しました。倫理カンファレンスの目的は、気づきの感性のアンテナを常に高くすること。それが医療サービスのレベルアップにつながります」と佐々木氏は話す。
 また、入院から通院になった患者で継続支援が必要な場合、病棟看護師から外来看護師へ電子カルテ上で情報共有する病院独自の仕組みも構築した。これは病院機能評価において高く評価されたという。

■ 「病院の財産は職員」だから働きやすい職場を目指す

小児プレイルーム
担当医師の写真が掲示された診察室入口
感染症専用入口
 奥田氏と渡辺氏は「職員が働き続けたいと思う職場にすることが大切」と声を揃える。職員がイキイキと働くことが医療の質を向上させ、結果的に患者さんに選ばれる病院になると確信しているからだ。
 職員にはレジデントも含まれる。渡辺氏は、「幸い初期研修医はずっとフルマッチしています。実臨床での経験が重要な小児や救急などに携われるからでしょう。ただ、初期研修後に残ってくれる若手医師が少ないのが課題です。私自身は石巻赤十字病院で初期研修し、後期研修も同病院で行いました。初期研修が修了したときには病院のシステムやスタッフの人柄もわかっているので、後期研修はとてもやりやすく、仕事にやりがいを感じられました。そうした私の経験からも、ぜひここに残って後期研修をしてほしい。そのためには、質の高い魅力的な医療を行う、レジデントがハッピーになる医療機関にしなければなりません」と強調する。
 同病院の医療の質向上に寄与すると期待されているのが2024年の導入を計画している手術支援ロボットだ。日本製、海外製の手術支援ロボットのデモンストレーションが行われた際には、多くのレジデントが見学に来たという。
 職員が働き続けたいと思うには、キャリアアップ支援も重要なポイントである。例えば、看護部では公費で認定看護師を育成しているほか、スキルアップサポートナースという病院独自の認定制度も設けている。これは、認定看護師の協力・指導のもと1年間学び、院内試験をパスしたら認定されるというもの。すでに手術室、感染、救急などの同ナースが誕生している。
 院長に就任して約半年、渡辺氏が職員の仕事内容を見聞きして感じたのが業務整理の必要性だ。「同じ業務を複数の部署で行っていたり、カットしてもよい作業が続けられていたりすることがわかりました。働き方改革が求められている今、業務の効率化は必須です。そのためには、今後ICTやDXの活用も検討していかなければならないでしょう」。

NICU
 新病院となって9年。この間、医療技術は想像以上の速さで進展し、病院の建物自体に問題はなくても、設備や機能がその進展に追いついていない状況が出てきている。「多機能なハイブリッド診療室のようなものが院内にあれば、もっと命を助けられるかもしれません。もちろん何でもとはいきませんが、どういう設備が当病院に必要なのかを見極めながら施設の充実度を高めていきたい」と渡辺氏。先の手術支援ロボットの導入計画はその第一歩でもある。
 「病院の財産は職員」と渡辺氏が言い、奥田氏も「良い病院の重要な条件は職員が仕事への意欲を持っていること」と語る。トップの両氏が目指すところは全く同じだ。そのゴールの向こうには多くの患者が待っている。来年の職員満足度の結果が今から大いに楽しみだ。

取材・文/荻 和子 撮影/轟 美津子

最新号の SIESTA はこちら