JMS情報誌「SIESTA」インタビュー

神奈川県 相模原市

JA神奈川県厚生連
相模原協同病院

神奈川県北部に位置し、緑区、中央区、南区からなる相模原市。横浜市、川崎市に次ぐ県内3番目の人口を抱えるが、その多くは中央区、南区に集中している。一方、緑区は、人口は少ないものの面積は3区内で最も広い。
その緑区にある相模原協同病院が2021年元旦、新病院へ移転した。病床数はそれまでの437床から400床へとスリムになったが、高度急性期医療を担う医療機関としてのさらなる充実が図られた。

■ 救急外来を軸に配置を組み立てる

井關治和 病院長
 相模原協同病院は1945年に県北部の無医村解消を図るため、神奈川県農業会相模原病院として開院。49年、神奈川県厚生農業協同組合連合会(厚生連)に運営が引き継がれ、協同病院と改称、68年に現在の名称となった。
 旧病院はJR橋本駅から徒歩5分の好立地にあったが敷地が狭く、駐車場の収容台数が少なかったため、病院前にはいつも駐車待ちの車列ができていた。加えて施設の老朽化もあったことから、旧病院から車で約7分の職業能力開発総合大学校跡地へ移転した。
 新病院の敷地面積は東京ドームの約1.5個分に当たる7ha。その半分弱が建物で、2階建ての外来棟と6階建ての入院棟で構成されている。外来棟の正面入口を入ると、ホスピタルストリートと呼ばれる広い通路がまっすぐに伸び、右側には検査室、左側には外来診療室が並ぶ。
 「コンパクトだった旧病院に比べ、新病院は広々とした開放的な空間になりました。課題であった駐車場は900台収容できるスペースを確保できました」と井關治和病院長は笑みをこぼす。移転の目的はむろん駐車場不足解消だけではない。相模原協同病院は元々相模原市の2次救急の中心的な病院の一つだ。「新病院ではさらに一歩進んで、高度急性期医療施設としての充実を図りたいと考えました。そのため、外来棟は救急外来を軸に配置していきました」と井關院長。
 救急外来は建物の北側、ホスピタルストリートの右側に並ぶ検査室と通路を挟んだところにある。その並びにはIVR室や放射線検査室が配置され、救急患者が最短の動線で検査を受けることができる。しかも、治療が終わった患者は専用のエレベーターで2階のICUへ速やかに移動できる。また、400床中、ICU8床、HCU10床、救急病棟のHCU14床、SCU6床、NICU6床が用意されている。

■ 常に2名の救急担当医体制で早急対応する循環器センター

杉本篤彦 循環器センター長
 相模原市の3次救急は、長らく南区にある北里大学病院が担ってきた。しかし同市は縦に長く、緑区から北里大学病院に救急搬送しようとすると30~60分かかる。そこで、相模原協同病院では循環器センターを2001年に開設し、「24時間365日断らない」ことをモットーに救急の受け入れを始めた。それは新病院でも引き継がれ、毎日2名の医師を救急担当として一刻も早く治療に対応できる体制を整えている。
 「循環器疾患は時間との勝負です。3次救急に近い救急搬送も、可能な限り受け入れています」と循環器センター長の杉本篤彦氏は述べる。
 最近、同センターでは全国で150施設ほどしか入っていないインペラ(補助循環用ポンプカテーテル)を導入。インペラは超小型のポンプを内蔵したカテーテル装置で、急性心筋梗塞や超重症心不全、劇症型心筋炎などによる心原性ショックに適応される。導入後3カ月の間に、すでに7件ほどのインペラ治療を実施している。
 急性期だけではなく、慢性疾患の治療レベルも高い。例えば、慢性完全閉塞病変(CTO)に対する心臓カテーテル治療の成功率は一般的に70~90%といわれているが、同センターでは95%を誇っている。
 また、2021年からカテーテルアブレーション専門の2名の医師が入職。おそらく2021年はアブレーション治療が100件ほど増えるのではないかと杉本氏は推測する。
 同センターの医師たちの平均年齢は約35歳。「フットワークが軽いのが当センターの特徴」と話す杉本氏は、どんな患者が搬送されてきても適切かつ速やかに対応できるようにと、若い医師にも積極的に治療経験を積ませている。
 「緑区は高齢者人口が多く、通常の手術ができないケースも多くあります。そうしたケースの代替として、将来、TAVI(経カテーテル大動脈弁留置術)などのストラクチャー心疾患カテーテル治療を行うようにしたい。そうすればかなりの領域の患者さんをカバーできます」と杉本氏は熱く語る。

■ 脳卒中センター新設で市外への救急搬送が激減

池田俊貴 脳卒中センター長
 移転を機に、新設されたのが脳卒中センターだ。それまで相模原市の脳卒中センターは北里大学病院のみだった。そのため対応には限りがあり、脳卒中疾患の救急車のなんと約4割が市外に搬送されていた。
 「緑区で発生する脳卒中疾患の救急搬送を引き受けたいと以前から考えていました。移転はそれを実現する絶好の機会になりました」(井關院長)。
 実際、同センターができてからは、市外へ搬送されるケースは激減。コロナ禍においても、脳卒中に関しての搬送困難例はこれまで1件も出ていない。
 同センター開設に向け、半年前から準備をしてきたセンター長の池田俊貴氏は「脳卒中は一刻の猶予もないため、開院にあたりどれだけ早くスタートダッシュを切れるかを重視し、移転後すぐに皆で様々なシミュレーションを行いました。開院4日目から手術を開始でき、1月だけで20件の手術を実施。その後も手術件数は増え続けています」と語る。
 同センターでは、常に脳梗塞の血栓回収治療を行える体制を組んでいる。また、難治疾患の脳動静脈奇形(AVM)の治療や脳動脈瘤に対する高難度バイパス手術などもすでに複数症例実施しており、着々と実績を積み上げている。
 「市内や近隣地域で脳卒中が起こっても、『あそこがあるから安心』と言われるような脳卒中センターにしていきたい」と話す池田氏には、今後取り組みたいことが二つある。
 一つは市民講座だ。脳梗塞の場合、発症間もない超急性期に早期受診できれば、治療の選択肢が広がり、重篤な脳梗塞に陥るのを防げる可能性がある。「早期受診につながる啓発活動を行いたい」と池田氏。もう一つは救急搬送の効率化だ。「軽症、中症、重症での搬送先をルール化すれば、より効率的に搬送できます。行政や他の医療機関と協力して、この地域に合った救急医療制度整備のお手伝いをしたい」。

■ 日本で最初の新型コロナ感染者の受け入れ先に

眞野彩 感染対策室室長
 同病院にとって2020年1月10日は忘れられない日となった。同日、武漢からの帰国者の妻から1本の電話が入った。「夫に発熱があり、診てもらえないか」との依頼である。当日の朝、井關氏は全職員に「武漢で広がっている肺炎は新型コロナウイルス感染症である」と知らせたばかりだった。
 「当日の早朝、WHOからの勧告を知り、いつかは新型コロナ感染者が来るなと覚悟はしていましたが、まさかその日のうちとは思ってもいませんでした」と井關院長は振り返る。
 急遽、感染対策委員会が招集され、ヒトからヒト感染の可能性があることから、最大限の感染対策をとることを決定。幸い、同病院は第2種感染症指定医療機関に指定されており、感染症病棟をもっていた。もうひとつ、幸いなことがあった。同病院では以前から感染症対策に力を入れており、1年前に新型インフルエンザ対応大規模訓練を主催していた。訓練で使用した防護服の予備が大量にあり、その着脱法も多くのスタッフが体得していたのだ。
 感染対策室室長の眞野彩氏は「感染対策をきちっとすれば感染拡大は防げると思っていたので、不安はありませんでした」と話す。
 この男性患者は、他の外来患者と接触しないよう感染症病棟で受け入れ、スタッフは防護服とゴーグルを着用して対応した。その後の検査で陽性が確認され、15日、日本における新型コロナウイルス感染者の第1例として厚労省より発表された。
 2月6日からは横浜港に停船したクルーズ船の陽性患者も受け入れた。「米国など、外国人の方々の受け入れには、食事や生活環境の違いがあり、コミュニケーションがとれず苦労しましたね。また、退院に際しては外務省や厚労省、大使館との連携が必要でした」と眞野氏は話す。
 一方、感染者の受け入れは風評被害を巻き起こし、状況を知ろうとスタッフに取材するマスコミも現れた。そのため、ホームページに現状や感染症対策を徹底して行っていることを掲載、通院や入院に問題がないことを伝えた。
 感染拡大につれ、昼夜問わず発熱外来に多数の患者が押し寄せた。「医療部や看護部だけでなく、事務スタッフも検温を手伝うなど、全職員の協力のお陰で院内感染を起こすこともなく、乗り越えることができました」と眞野氏。また、今後については「海外との往来が再開されると、新興感染症がいつ発生するかわかりません。それに備えて日ごろから訓練しておくことをお勧めします」とアドバイスする。
 同病院では市からの病床拡大の要請を受け、旧病棟の40床を新型コロナウイルス感染者専用病床として対応した。

■ 新型コロナ対応をヒントに市北部のER型救急病院に

 相模原市では、当初、新型コロナ感染症重症患者は北里大学病院が受け持っていた。しかし、重症患者の急増で北里大学病院だけでは対応が難しくなり、同病院でも重症患者を引き受け、エクモ(ECMO)治療を行った。このことで、市内の重症患者が入院できなくなる事態を回避できた。井關院長はこれをヒントに「北里大学病院のお手伝いをして、当病院を1次から3次まで分け目なく診るER型救急病院にしていこうと考えています」と語る。
 広い相模原市の3次救急を北里大学病院だけが担当するのは無理がある。同病院が市北部の3次救急まで担当すれば、市全域の3次救急がカバーできるではないか。すでに新病院には循環器センターと脳卒中センターがある。それを活かすことで3次救急医療機関としての役割を果たそうというわけだ。
 「当院は相模原市北部の救急医療の砦です。これからさらに強固な砦にしていきたい」。井關氏は力を込めてこう語った。

取材/荻 和子 撮影/轟 美津子 写真提供/相模原協同病院

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