インタビュー JMS情報誌 SIESTA

鹿児島県 鹿児島市

公益社団法人昭和会
いまきいれ総合病院

 今、全国の医療関係者が最も注目している場所が鹿児島市にある。市街地のほぼ中心、JR鹿児島中央駅や繁華街の天文館から約2kmという鹿児島市交通局跡地だ。約2万5千m2という広大な跡地では、医療施設と外資系ホテル、分譲マンション、商業施設などから構成される多世代交流複合施設「キラメキテラス」の建設が進んでいる。
 特筆すべきは、ここに法人の異なる医療施設が2つ入り、しかも両施設がアトリウム(渡り廊下)で結ばれていることだ。2021年1月1日、そのうちの一つ、公益社団法人昭和会いまきいれ総合病院がキラメキテラスの第1号施設としてオープンした。

■ 「健“幸”」をテーマにした「キラメキテラス」

 いまきいれ総合病院の前身は、1938年に鹿児島市北部の上町地区に開院した今給黎医院だ。47年に今給黎病院、89年には今給黎総合病院と名称変更するとともに急性期医療に注力し、以来、24時間365日救急体制を維持してきた。また、がん医療や周産期医療にも積極的に取り組み、増築を重ねながら診療科や病床数の増加に対応してきたが、複数の建物があることの不便さに加え、建物自体にも耐震性の問題が生じていた。
 移転や建て替えを検討していた2015年、鹿児島市交通局跡地の売却提案公募を検討していた南国殖産株式会社から、共同事業体への参画を打診され応諾。この共同事業体には、回復期、慢性期を担う医療法人玉昌会高田病院も加わることになり、3者で定期的に会議を持ち、跡地開発計画事業を詰めていった。そしてできあがった全体コンセプトが「30年後の鹿児島に向けた未来への贈り物」だった。どの世代でも暮らしやすく、多世代が支え合う仕組みとして「ヒューマンライフライン」の実現を目指し、健康で幸せな未来「健“幸”」をテーマにした複合施設「キラメキテラス」の建設を提案し、16年に採択された。
 名前を新たに誕生したいまきいれ総合病院は9階建てで、外観はベージュを基本色とした落ち着いたたたずまいになっている。院内はゆったりとして、明るく温かな雰囲気が漂う。
 濱崎秀一病院長は「キラメキテラスには将来の災害に備え、2つの大きな対策が講じられています」と話す。1つは浸水対策だ。「南海トラフや桜島の噴火が起こると、このエリアには5mの津波や付近にある甲突川の洪水が押し寄せると想定されるため、当複合施設全体の1階天井高は6mになっています。2階以上に避難すれば、津波や洪水から逃れられる可能性が高い安心構造というわけです」と説明する。
 また、災害時に最も危惧されるのがライフラインの途絶だ。キラメキテラスにはエネルギーセンター棟が設けられ、複合施設全体に電気と熱を供給しているが、災害時に万一、停電しても電力を供給できるシステムが整備されている。

■ 「救急」「がん」「周産期」を軸にさらなる充実へ

 今回の移転を機に、同法人は医療の機能分化を図った。450床あった今給黎総合病院を、急性期医療に特化した30診療科・350床のいまきいれ総合病院と、100床からなる回復期病院の上町いまきいれ病院(今給黎総合病院を改修・改称)に分けたのだ。
 新病院では、今給黎総合病院時代からの「救急医療」「がん医療」「周産期医療」の3本軸を継続し、さらなる充実を図っている。
 救急医療については、準夜勤1名と夜勤1名、集中治療室を担当する医師1名の計3名に加え、各診療科の医師が1名ずつ夜間の急患に対応するため当番制で自宅待機をするオンコール体制をとり、「救急患者の受け入れを絶対に断らない」姿勢を貫く。
 救急センターは1階にあり、3階の中央手術室や高度治療室(HCU)、4階の新生児集中治療室(NICU)や新生児回復室(GCU)へは、救急センター内のエレベーターで直接結ばれ、短時間で移動できる動線が確保されている。また、救急センターに隣接してCTやMRIが揃った放射線部門が配され、救急患者に迅速かつ効率的に対応できる配慮がなされている。
 30診療科を掲げる新病院では、あらゆる領域のがんをカバーできている。また、今回、地域がん診療拠点病院としてより高度ながん医療を提供するため、内視鏡下手術支援ロボット(ダビンチX)が新たに導入された。
 周産期医療に関しては、これまで鹿児島県地域周産期母子医療センターとして、鹿児島市立病院が超急性期を、その後を同病院が担当という役割分担をしてきた。新病院ではNICUを9床、GCUを12床に増やして、その役割をさらに強化。加えて新生児フォローアップセンターを新設し、鹿児島県はもとより、県外のNICU退院後の早産児などを受け入れ、フォーローアップ健診やリハビリテーション、発達検査などを実施している。

■ 異なる2つの医療法人施設が渡り廊下でつながる

 いまきいれ総合病院に続いて2月1日、キラメキテラスのもう一つの医療施設「キラメキテラスヘルスケアホスピタル(旧高田病院/以下、ヘルスケアホスピタル)がオープンした。翌2日、2階にある両施設をつなぐ屋根付き渡り廊下のアトリウムがついに開通。異なる医療法人の病院がアトリウムでつながるのは全国でも新しい試みだ。いまきいれ総合病院と、慢性期機能を持つヘルスケアホスピタルがつながることで、急性期から回復期、慢性期までシームレスな医療提供が可能になった。すでに、いまきいれ総合病院の入院時カンファレンスにヘルスケアホスピタルのスタッフが参加して情報を共有し、スムーズな転院を図るなどの取り組みが始まっている。
 「当院には透析室が少なく、透析治療が必要な患者さんの入院を断らざるを得ないことがありました。しかし、ヘルスケアホスピタルには外来透析室が多くあるので、安心して透析治療中の患者さんの入院受入ができるようになりました」と濱崎院長は喜び、さらにこう続ける。「健康診断や人間ドックの一次健診はヘルスケアホスピタルで、二次健診は当院で行うというワンストップ型の健診システムも可能です」。
 ヘルスケアホスピタルの入院患者の画像検査をいまきいれ総合病院で行うなど、検査機器の共有も実施。両施設の特性を互いに活用した新しい医療提供の姿がつくられつつある。
 また、現法では病院間でのカルテの共有はできないが、将来を見据え、両病院とも同じ機種の電子カルテを導入。1患者1カルテ化の法的なクリアを目指している。

■ 多面的に学べる環境で底力あるスタッフ育成を目指す

 新病院では新しい患者サービスを取り入れた。外来受付の時間帯によって患者用首掛けストラップを色分けし、早い時間帯に来院した外来患者が待合室や診察室の前にいる場合、ストラップの色で職員が早く気づき、対応できるようにしたのだ。
 看護師のユニフォームの色も日勤と夜勤で分けた。日勤か夜勤かが一目でわかるので、入院患者や家族にとっては頼みごとをしやすく、スタッフ間でも、勤務終了間際に用事を頼まれるといったことがなくなるため好評だという。
 また、入院患者にとって、一番の楽しみはなんといっても病院食だろう。できたてと変わらぬ食事を味わってもらうため、新病院では提供直前に熱風蒸気方式で温める最新の調理システムを導入した。毎昼食、検食をしている濱崎院長も「以前にも増しておいしい食事になっています。患者さんの評判もよく、新病院に移ってからは残食量が大幅に減少しました」と笑顔を見せる。
 今給黎総合病院時代から医師や看護師の人材育成に力を入れてきたが、特に研修医の丁寧な指導には定評がある。
 「当院の職員数は1000名を超え、常勤医師も100名以上います。それに対して、研修医は毎年8名と少し絞っています。当院では複数診療科の合同カンファレンスが日常的に行われ、各診療科の垣根がありません。研修医はいろいろな診療科の医師と接することができ、多面的な勉強ができる体制になっています。臨床が好きで救急をはじめ多くの経験を積みたいという志向を持つ研修医には最適の施設と自負しています。新病院になって県外から見学に訪れる医学生が目に見えて増えています」と濱崎院長は確かな手ごたえを感じている。
 一方、看護師教育にも熱心だ。日本看護協会が開発した「看護師のクリニカルラダー」をベースに同院独自のクリニカルラダーを作成し、ステージごとにキャリアアップしていくシステムと、その客観的な評価制度を設けている。また、同病院には感染管理認定看護師や新生児集中ケア認定看護師などさまざまな認定看護師が揃っているが、県外の研修参加に対して経済的なサポートをするなど、勉強の機会を積極的にバックアップしている。鹿児島県は全国有数の離島県でもあることから、2018年度からの5カ年計画「十島村看護師キャリアアッププラン開発プロジェクト」にも参加。へき地診療所のマニュアル整備、クリニカルラダー作成、教育環境整備、住民支援、人材派遣などについて多くの関係施設と共に取り組んでいる。

■ 多世代が健康に暮らす「スモールシティ」を目指して

左から 近藤ひとみ看護部長、米田敏副院長、濱崎秀一院長、
今給黎和幸理事長、今給黎尚幸副理事長 
 中心市街地に移転し、新病院となって以来、救急車搬送件数は着実に増えた。このペースでいけば、今年は2020年の3500台を上回ることは確実だという。また、目の前に市電とバスの停留所があるというアクセスの良さから、市全域、特にこれまでカバーできなかった市南部地域からの新患が増えている。
 キラメキテラスは現在も建設中で、19階建てのシェラトンホテルやショッピングセンター、分譲マンションなどが完成するのは2023年の予定だ。「ホテルなどの施設を利用して市民公開講座などを開き、予防医療に積極的に取り組んでいきたい。また、シェラトンホテルに宿泊して当院で人間ドックを受けるメディカルプラン構想もあります」と濱崎院長は未来像を描く。

 キラメキテラスでは日々工事が進んでいる。単なる複合施設の建設ではなく、スモールシティづくりが行われているのだ。新しいまちでの医療の在り方は、これまでとは大きく異なるに違いない。いまきいれ総合病院を中心に、新時代の医療の姿が徐々に現れつつある。

取材:荻和子/撮影:小森園豪/写真提供:いまきいれ総合病院

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