第48回 日本嚥下医学会総会ならびに学術講演会

第48回 日本嚥下医学会総会ならびに学術講演会
ランチョンセミナー3

Seminar Report

嚥下診療で知っておきたい知識 2025年版
~診察・対応・算定~

日時:2025年2月22日(土)
会場:神戸国際会議場3階国際会議室

座長

神戸大学医学部附属病院
耳鼻咽喉・頭頚部外科 講師

古川竜也 先生

座長挨拶

 本日ご講演いただくのは東京大学医学部附属病院 摂食嚥下センター センター長の上羽瑠美先生です。上羽先生は本学会でも企画立案に大きくお手伝いいただくなど、皆様もご存じのように縦横無尽にご活躍されております。
 本日は2024年に改定されました「嚥下障害診療ガイドライン」を踏まえて、診察や対応、さらには皆さんも困られることが多いのではないかと思われます診療報酬の算定も取り上げてくださると伺っております。明日から役に立つたくさんの知識をご披露いただけるとのことでとても楽しみにしております。では、上羽先生よろしくお願いいたします。

講演

嚥下診療で知っておきたい知識 2025年版 ~診察・対応・算定~

演者

東京大学医学部附属病院
摂食嚥下センター センター長

上羽瑠美 先生

■ 嚥下障害に関する最新情報

 2024年「嚥下障害診療ガイドライン」が改訂されました。2018年版から少し変わったのが嚥下障害診療アルゴリズムです。2018年版では簡易検査は必須ではなかったのですが、2024年版では嚥下内視鏡検査または嚥下造影検査前に簡易検査を行う流れになっています。また、2018年版では嚥下造影検査は、嚥下内視鏡検査により何らかの異常が認められ、必要と判断された場合に専門的な医療機関で行うとされていたのに対し、2024年版では嚥下造影検査または嚥下内視鏡検査を行うと、両検査が同じ立ち位置に変わっています。
 一方、大きく変わったのがクリニカルクエスチョン(CQ)です。その一つに、これまで全く触れられていなかった舌圧測定に関するCQがあります。「舌圧測定は嚥下機能の評価に有効か?」というCQに対し、「最大舌圧値が舌運動障害や嚥下障害と相関するという疫学研究が複数報告されている。また脳卒中やパーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症の患者における最大舌圧値の低下は嚥下障害発症の早期診断に役立つという報告もあり、(略)舌圧測定は、嚥下機能評価の一つの指標となり得る」と答えています。栄養についても追記されています。「サルコペニアの嚥下障害において栄養管理は嚥下機能の改善に有効か?」とのCQでは、「嚥下訓練が可能な場合には、嚥下関連筋の訓練を含むリハビリテーションと栄養管理の両者を実施することが嚥下機能改善に有用」と記載されています。
 2024年、日本老年医学会、日本老年歯科医学会、日本サルコペニア・フレイル学会が「オーラルフレイルに関する3学会合同ステートメント」を出しました。まず、フレイルとは身体的要素、精神・心理的要素、社会的要素を包括したもの、その中で運動機能が低下した状態がロコモティブシンドローム、それがより悪化し、加齢に伴って筋肉量が減少し、身体機能がさらに低下した状態がサルコペニアと捉えるとよいでしょう。口腔機能で見ると、加齢に伴い老嚥になると嚥下におけるフレイル、そこに低活動や低栄養、疾病悪化が加わると嚥下におけるサルコペニア、つまり嚥下障害になり肺炎のリスクが高まります。
 ここまで進むと改善は難しいですが、フレイルの段階であれば健康側に戻ることが期待できます。この3学会合同ステートメントでは、オーラルフレイルは「口の機能の健康な状態、いわゆる健口と口の機能低下との間にある状態」とされています。また、オーラルフレイルの評価法として8項目から構成される「OFI-8」がありましたが、今回5項目から成る簡便な「OF-5」が開発されています。
 2019年には日本サルコペニア・フレイル学会、日本摂食嚥下リハビリテーション学会、日本リハビリテーション栄養学会および本学会によって「サルコペニアと摂食嚥下障害4学会合同ポジションペーパー」が作成されました。この中で舌圧が20.0kPaを下回っていると「Probable sarcopenic dysphagia」に当たるとされています(図1)。
 令和6年度診療報酬改定では、適切な栄養管理体制を整えないと入院基本料を算定できなくなりました。栄養評価にはGLIM基準を用いることが通達されています。GLIMは世界初の低栄養の診断基準で、MUSTやMNA-SF®などのスクリーニングツールを使用して、少なくとも一つの表現型、原因に該当すれば低栄養と診断するとされています。

■ 問診・診察のポイント

 嚥下障害が疑われる患者さんの診療には、すでに背景疾患・病態がわかっている場合と不明な場合の2パターンに大別されます。前者の場合は喉や口を診るだけでなく、例えばパーキンソン病であればこういう嚥下障害が起こりやすいといった、各疾患・病態における一般的な嚥下障害の所見や進行状況などの知識を持って診療に当たるべきと考えます。背景疾患・病態が不明で「飲み込みにくさ」を主訴に受診された場合も、全身的な疾患が背景に隠れている可能性があることを念頭に置き、診療することが大切です。その際も、前者の場合同様に、各疾患・病態における一般的な嚥下障害の所見などの知識があると鑑別診断に役立ちます。図2は私の頭の中にある、嚥下障害を来す疾患の鑑別マップです。こうしたマップを先生方一人ひとりが作るとよいでしょう。
 診療する際に大切なことは、どこが、どのようにおかしいのかを多方面から探ることです。それには病歴・既往歴や病変部位、治療部位が手掛かりとなります。例えば、脳腫瘍の患者さんであれば、腫瘍のある部位を知ることで、どういう嚥下障害が現れるかが推測できます。また、患者さんを見て、聞いて、触って推測していくのも良い方法です。患者さんが診察室に入るときから、つまずきそうになっていないか、ふらつきがないかなど注意して観察します。私は握力チェックを目的に「よろしくお願いします」と患者さんと握手をすることもあります。

 フレイル診断基準では、「男性28kg未満、女性18kg未満」の場合に筋力低下と評価します。この評価項目を「ペットボトルの蓋を自分で開けられますか?」と変えるなどの工夫をすると患者さんは答えやすくなります(図3)。

 こうした情報をできるだけ多く集めてから嚥下機能検査に入ります。検査では、構音障害、音声障害、舌萎縮・運動障害などを診ていきます。構音障害については単にその有無だけでなく、どこがおかしいのかを知ることが大切です。そのために患者さんに「パタカ」や「ラナラナ」と発音してもらったり、私の場合であれば「生麦、生米、生卵」などの早口言葉を言ってもらったりします。うまく発音できないときは、舌運動障害あるいは中枢性の問題があるかもしれないなどと原因を推測します。また、専門的な検査の一つである最長発声持続時間(MPT)の測定は、特別な検査機器が不要で、時計あるいはストップウォッチさえあればできる簡便な検査で、行いやすいです。MPTが低下している場合には呼吸機能の低下や声門閉鎖不全を疑います。嚥下機能検査には嚥下内視鏡検査や造影検査などのほかに舌圧検査もあります。ただし注意していただきたいのはどの検査であっても、それ一つで嚥下機能がすべて評価できるわけではないということ。さまざまな診療結果を基に総合的に評価することが大切です。
 舌圧測定については、「嚥下障害診療ガイドライン2024年版」に「JMS舌圧測定器を用いて最大舌圧を計測する。30kPa未満の場合を低舌圧とする」と記載されています。この代替検査法として「舌圧トレーニング用具『ペコぱんだ®』硬め(H、黄色)を押しつぶすことができない場合を低舌圧とする」と載っています。これらのエビデンスとして舌圧が加齢とともに低下することや、高齢の摂食嚥下障害患者さんは舌圧が低いという研究結果があります。これを言い換えると、舌圧が低い患者さんは嚥下障害の可能性があるということです。
 口腔内を診ることは非常に重要です。乾燥、分泌物や残渣などの貯留、窒息のリスクなどのほかに、舌についても萎縮の有無や振戦・運動障害などを診ます。舌を動かして運動障害の有無を診察する際には、下顎代償が出ていないかも観察しましょう。
 鼻咽腔閉鎖不全については嚥下時と発声時ともに評価する必要があります。もし嚥下時と発声時に解離がある場合には、神経筋疾患や脳腫瘍の可能性があるので脳神経内科医や脳神経外科医に相談します。「アー」と発声してもらったとき、咽頭後壁が健側に引かれる症状がみられる場合は、迷走神経障害によるカーテン徴候が疑われます。したがって声帯麻痺を診る際には、鼻咽腔閉鎖不全やカーテン徴候、舌運動障害や舌萎縮など下位脳神経障害を考慮する必要があります。

■ 嚥下障害への対応

 嚥下障害に対しては、口腔ケアや栄養管理、食事指導、摂食介助などさまざまなアプローチが必要となるので、言語聴覚士や摂食嚥下障害看護認定看護師など多職種によるチーム医療で行う必要があります。また、患者さんは口腔ケアの保湿剤や栄養・水分を補給するゼリーなどについての情報を知らないことが多いので、それらの情報を患者さんに提供することもよいでしょう。
 摂食方法の工夫として、一口量の調整や姿勢の調整、摂取物の食品物性の調整などがあります。私は、不顕性誤嚥のリスクがある患者さんには、注意して食べることに加え、おかしいなと思ったときは強い咳ばらいをするように伝えています。
 診療報酬については、口腔ケアには歯科口腔リハビリテーション料や口腔機能向上加算、栄養管理では入院栄養食事指導料や栄養サポートチーム加算などがあります。それぞれの領域の加算とは異なる、包括的なものとして摂食機能療法があります(図4)。

 これは1日30分以上、看護師、理学療法士などが1日30分以上訓練指導を行うと算定できるので、取り漏れがないようにしましょう(脳卒中は発症14日以内15分以上)。
 摂食機能療法の1回の診療報酬点数は低いですが、算定件数が増えれば嚥下障害に熱心に取り組んでいることを病院サイドにアピールすることができます。それはひいては患者さんのためになり、私たちのためになるといえます。

■ 嚥下障害への訓練のポイント

 嚥下リハビリテーションには大きく2種類あります。一つは食物を用いずに行う間接訓練で、舌筋力訓練や頭部挙上訓練などが含まれます。もう一つは息止め嚥下法や複数回嚥下など食物を用いて行う直接訓練です。
 先ほど舌圧測定の際に紹介したペコぱんだ®は舌のパワー強化にも活用できます。また、舌圧測定器は嚥下機能低下に対して行うリハビリテーションとして使用可能で、それを用いてのリハビリテーションは摂食機能療法や脳血管疾患等リハビリテーション料等の算定対象となります(図5)。

 そのほかの間接訓練として、嚥下反射惹起遅延に対してはアイスマッサージ、舌骨上筋群や咽頭収縮筋の筋力低下にはおでこ体操、喉頭挙上あるいは喉頭閉鎖不全には頭部挙上訓練(シャキアー手技)や息こらえ嚥下があります。電気で神経を刺激する機器がさまざま出ているので、それらを嚥下リハビリテーションに活用するのもよいでしょう。

 まとめです。患者さんを診る際には、喉や口だけでなく、全体を診ることが大切です。また、口腔機能・栄養状態・嚥下機能を合わせて評価します。どこがどのようにおかしいのか、対応方法はどうするかを考え、診療報酬点数につなげましょう。舌圧測定器による訓練は規定内であれば算定可能です。我々医療者として最も重要なのは、知識を常にアップデートすることです。今日の私の講演が会場の先生方のアップデートに少しでも役に立てば幸いです(図6)。

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