第32回日本静脈経腸栄養学会学術集会

第32回日本静脈経腸栄養学会学術集会
ランチョンセミナー5

Seminar Report

「混注部(ニードルレスコネクタ)」
について

日時:2017年2月23日
会場:ラヴィール岡山 3階 嘉・祥

座長

藤田保健衛生大学
医学部外科・緩和医療学講座 教授

東口髙志先生

 本日は多くの方にお集りいただきありがとうございます。演者の藤田先生のご専門は感染制御であり臨床感染症学や血液内科学などを専門とされており、また日本臨床検査医学会や日本環境感染学会など、多くの学会の評議員を務められております。先生はこれまで積み重ねてこられた研鑽と知識をもとに独自のフィールドを開発されておりますので、本日はそうしたお話をうかがえるのではないかととても楽しみにしております。

講演

「混注部(ニードルレスコネクタ)」について

演者

京都府立医科大学
感染制御 病院教授

藤田直久先生

■ はじめに

 使用時に無菌状態が必要な「混注口」は、未使用時には「外部環境」に常時曝露されています。私たち医療従事者はこのことを肝に銘じておかなくてはいけません。
 ニードルレスコネクタ(NC)は「針のない接続部分」という意味です。もともとは米国で針刺し事故防止を目的に開発されたものですが、日本では閉鎖式システムという発想のもと導入された経緯があります。最初は裂け目のある膜に鈍針を挿入するスプリット鈍針タイプ、次に機械的にアクセス部を押し下げるメカニカルタイプ、さらには鈍針が不要でスリット膜をシリンジがほぼ貫通するスプリットセプタムタイプなどが開発されてきています。どのような構造がよいかはまだ最終結論は出ていません。したがって皆さんがNCを導入する際には、それぞれの特徴を知り、表面が拭きやすいか、内部構造がどうなっているか、死腔があるかないかなど多方面から検討し、選択する必要があります。そして何よりも大事なのは、選択決定後の教育と訓練です。また、導入前後の血流感染症発生率や適切な手順・手技の遵守率を評価することも必要です。
 輸液ラインからの感染リスクはどのくらいあるでしょうか。まだNCが開発されていなかった1985年のデータでは側注デバイスからの汚染率は70%、刺入部汚染、薬液汚染、カテ先からの血行性播種がそれぞれ10%となっています(図1)。カテーテル血流感染症がどこから来るかというデータ(2004年)では、管腔外が60%、管腔内が12%となっていて(図2)、ハブが汚染されて回路中に菌が侵入することが危惧されます。

資料
図1

資料
図2

■ きっかけとなった2つの事例

 当院でNCの管理について見直すきっかけとなった2つの事例を紹介します。一つは末梢静脈カテーテル挿入5日目に、突然39℃以上の発熱があり、血液培養でエンテロバクターとバシラスが検出され、輸液ルートの培養からも同じ菌が検出された事例です(図3・4)。発熱の原因は、NCを介して輸液ルート内に菌が入り、その菌が増殖して血流へ流入したためと推測されました。
 もう一つは、輸液回路交換時に、回路内の異物に気づいた事例です。この輸液回路は12日間交換されておらず、異物を培養したところ真菌であることが判明しました。輸液またはNCからの侵入と回路の長期使用による回路内での真菌増殖が原因と考えられました。
 それまで私たちはNCにあまり注意を払っていなかったのですが、この2つの事例を通して、NCの管理についてもう一度見直さなければいけないと感じました。

資料
図3

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図4

■ NCとCRBSIに関する文献からの考察

 血管内留置カテーテル関連血流感染症(CRBSI)に関連する因子の一つ「不適切な手技」の中に「混注口の不適切な消毒」があります。2011年に出たCDCガイドラインに「ニードルレス血管内留置カテーテルシステム」に関して6つの勧告が載っています。その6番目に「ニードルレスシステムを使用する場合は、いくつかのメカニカルバルブで感染リスクを増加させるため、スプリットセプタムバルブのほうがよいかもしれない(カテゴリーⅡ)」と記されています。そう考えると、メカニカルバルブよりもニードルレスポートの方が良いとの話になりますが、最初にお話しした通り、決してそうではない訳です。ドラフト版では、これは「ニードルレスシステムを使用する場合は、感染リスクを増加させるため、メカニカルバルブよりもスプリットセプタムバルブのほうが望ましい」という文言になっていましたが、これは「スプリットセプタムからメカニカルバルブに変更したら血流感染が増加した。教育を強化したが変化がなかったので、元に戻したところ感染率が低下した」という論文がベースになり、ドラフト版として出された背景があります。
 同様に、ドラフト版の内容が完成版で変更されたものに、ニードルレスシステムの消毒部分があります。ドラフト版では「適切な消毒薬(クロルヘキシジンが望ましい)を用いてポートを拭き(Wipe:ぬぐう)、滅菌器材のみをポートに挿入し、汚染リスクを最小限に抑える」となっていたのが、完成版では「適切な消毒薬(クロルヘキシジン、ポビドンヨード、ヨードホール、70%アルコール)を用いてポートを拭き(Scrub:ごしごしこする)、滅菌された器材のみをポートに接続し、汚染のリスクを最小限に抑える」となりました。
 では、NCによる閉鎖式輸液回路は本当に安全なのでしょうか。挿入後のカテーテル関連感染症の約50%はNCが原因とされている報告もあります(図5)。また、無菌的操作の破綻が、不十分な消毒、菌の混入、NC内のバイオフィルム形成から、カテーテル感染につながります。NCの消毒実施率は、アメリカではDr.ではありますが10~30%にとどまっています。

資料
図5

 急性期病院でNCを使いバイオフィルムがどのくらい検出されたかを調べた論文が2014年に出ています。標準的なコネクタと銀コーティングされたものとを比較したところ、いずれからも約50%の菌が検出されました。非培養法ではともに90%以上で菌が検出され、培養できない菌の存在とバイオフィルム形成が示唆されました。また、患者ごとにバイオフィルムを形成する菌種が異なっていました。こうした結果から、その論文では「NCはさまざまな病原体の侵入門戸となり、カテーテル内腔に定着後バイオフィルムを形成することで、カテーテル関連感染へとつながるため、カテーテルの維持管理は重要である」と結論づけています。
 NC内のバイオフィルム形成を防止するために、イギリスのガイドラインでは、①単回使用の2%CHG(70%イソプロ含有)で毎回アクセス・ハブ部分を消毒する、②ハブは最低15秒間かけて汚染を取り除く、③乾燥するまで待ち、その後アクセスするとしています。アメリカの急性期病院におけるCRBSI防止実践ガイドライン2014では、ニードルレスコネクタに関して、「輸液システムを変更したら再教育が必要」と記されています。デバイスのアクセス時の消毒について、「アクセス部分をアルコールCHG、10%PVPで機械的に強くこすって消毒する」「最低5秒間は機械的にこする(ただし、この時間が未検討のNCに適応できるかは不明)」「通常の手技ではカテーテル回路の約半数の細菌の定着があるので、デバイスの消毒の遵守状況を監視する」となっています。さらに特別な方法として、「消毒薬含有デバイスを覆う保護キャップ等を使用する」とし、「ただし、デバイス発生率がさまざまな予防手段をしても減らない場合に使用を推奨する」となっています。
 消毒薬含有キャップについては、430床を超える外傷センターで消毒薬含有キャップを使用したら感染症発生率が40%以上低下し、病院の1年あたりの費用が約30万ドル削減できたという論文(2014年)があります。また、通常の三方活栓とプラネクタ+専用保護キャップとを比較した論文(2007年)でも、プラネクタ+専用保護キャップにより細菌汚染頻度が6.2%から1.3%と低下しました。NCの90%以上にバイオフィルムが形成され、それが血流感染の原因になるかもしれないという実験データを絡ませると、やはりキャップの使用を考えたほうがよいかもしれません。
 一方、イソプロピルアルコール(IPA)含浸消毒薬キャップを使用するとルアーアクセス部位のバルブに変性が起こり、回路内へIPAが混入したという論文(2015年)が出ていて、新生児集中治療室においては使用すべきでないと結論づけています。
 CRBSIをゼロにできたという論文(2012年)も出ています。専属の血管アクセスチームを編成し徹底管理したところ、7年間発生率がゼロになったそうです。
 では、NCの表面にはどれくらいの細菌が付着するでしょうか。当院でプラネクタについて調査したところ、ICUで使用した中心静脈ラインでは汚染ゼロだったのですが、一般病棟で使用している末梢静脈ラインでは約2割が汚染され、菌の種類もマイクロコッカス、コリネバクテリウム、黄色ブドウ球菌、バシラスなどさまざまでした。消毒薬と消毒手技によりどのくらい影響があるかを10%ポビドンヨード、アルコール、クロルヘキシジン、滅菌蒸留水で調べてみたら、接続部をゴシゴシと拭くと、ほぼ細菌は検出されませんでした(図6)。つまり、接続部の表面を物理的に拭い取ることが回路内への侵入を防いでいるということです。
 NC表面(混注口)の消毒について、日本の製品の添付文書では、その記載内容はさまざまで、さらに使用手順に対する教育啓発もメーカーごとに異なります。中には、消毒方法が記載されていないものもあります。ちなみに、プラネクタの添付文書には「混注口を消毒用アルコールで消毒すること」と書かれています。また消毒手順の中で、忘れがちですがアクセス後のNC表面に残った薬液等を拭き取ることが重要です。

資料
図6

■ 理想的なNCの条件とは

 本日は輸液のNCについてお話ししました。NCに求められる条件の第1は表面が滑らかで消毒が容易であることです。第2にポート内に薬液が見え、できれば死腔がない、あるいは少ないこと。第3はアクセス部分が汚染されにくいこと。第4はバイオフィルムが形成されにくい素材であること。第5は接続部がルアーロック式で固定できること。第6は抜去時に逆血がない工夫が施されていることなどがあげられます。
 輸液回路の汚染には、輸液の汚染、NCの汚染、刺入部の皮膚汚染があります。これらはCRBSIの原因となります。NCの汚染によるCRBSIは多いのかもしれません。NCの形状や構造によって、CRBSIの発生頻度は異なります。
 皆さんには現在使用しているNCがどういうもので、どのような管理をすればCRBSIを減らせるかを考えていただきたいと思います。本日の私の話が皆さんの施設においてNCの管理方法や手順についての見直しのきっかけになれば嬉しいです。

■ おわりに

座長 東口先生:藤田先生ありがとうございました。今日の先生のお話は静脈栄養における輸液管理の面において、感染症の合併症・副作用を限りなくゼロに近づけることができるという非常に重要なお話でした。皆さんも大いに参考になったのではないでしょうか。今日の先生のお話を各施設に持ち帰り、現場に活かしていただきたいと思います。

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