医療関連感染防止対策セミナーレポート

開催:埼玉  2017 年6月17日

講演内容 演者氏名/ 病院名
【指定講演】
座長 坂木晴世 先生 / 西埼玉中央病院
【指定講演1】
突然の発熱! 患者に使っているデバイスはなんだ
笠間秀一 先生 / 日本医科大学付属病院
【指定講演2】
拡がってからはもう遅い! 嘔吐と下痢は最初が肝心
宮田貴紀 先生 / 埼玉メディカルセンター
【指定講演3】
その咳嗽、大丈夫? 長引くゴロゴロには要注意
武田由美 先生 / 西埼玉中央病院
【特別講演】
座長 坂木晴世 先生 / 西埼玉中央病院
【特別講演】
感染症診療のロジック
大曲貴夫 先生 / 国立国際医療研究センター

医療関連感染防止対策セミナー 2017 in 埼玉

  • 日時:2017年6月17日(土)
  • 場所:ウェスタ川越 多目的ホール

開会の挨拶 総合プランナー

坂木晴世 先生

感染症看護専門看護師/感染管理認定看護師
独立行政法人 国立病院機構西埼玉中央病院

本日は埼玉県で医療関連感染防止対策セミナーを開催していただき、関係者の方々に心からお礼を申し上げます。本日はまず指定講演として、「もしかして感染症?――初期対応でしくじらない患者アセスメントと予防策」というテーマで3人の先生方に登壇いただきます。その後、国立国際医療研究センター副院長・国際感染症センターセンター長の大曲貴夫先生から特別講演を頂戴することになっております。どの講演も明日からの臨床現場で役立つ内容だと大いに楽しみにしております。どうぞよろしくお願いいたします。

指定講演 座長

坂木晴世 先生

感染症看護専門看護師/感染管理認定看護師
独立行政法人 国立病院機構西埼玉中央病院

本日の指定講演のテーマは「もしかして感染症?――初期対応でしくじらない患者アセスメントと予防策」です。豊富なご経験をお持ちの笠間秀一先生、埼玉県で最初の感染管理認定看護師となられた宮田貴紀先生、感染症看護専門看護師として高度な看護実施と職員教育に携わっておられる武田由美先生がご講演されます。今日のお話を現場に持ち帰って他のスタッフにも伝えていただきたいと思います。

指定講演1

突然の発熱! 患者に使っているデバイスはなんだ

笠間秀一 先生

感染症看護専門看護師
日本医科大学付属病院

退院直前の患者さんが急に発熱して退院が延期になった、あるいは手術前に急に発熱して手術が延期になったといった経験があるのではないでしょうか。そうしたときの原因の一つに末梢ラインや気管内挿管などのデバイスがあります。デバイスは外界と体内をつなぐ通路を作ってしまうため感染の原因となります。

発熱のメカニズムですが、デバイスなどから病原性微生物が体内に侵入すると、それを異物と認めた免疫細胞の白血球やマクロファージが排除しようとします。ところが、自分たちだけでは無理だと判断するとサイトカインを発生させ、サイトカインにプロスタグランジンを作らせて視床下部にその情報を伝達します。すると視床下部は体温上昇(発熱)の指令を出します。発熱することにより、病原性微生物の増殖抑制、白血球の機能促進、その他の免疫機構の促進という効果がもたらされます。

発熱は体に何か問題が起こっているサインです。発熱している患者さんを見つけたらまず情報を集めてください。具体的には、年齢、性別、既往歴などの患者背景、発症、経過、症状の強さ、部位などの現病歴、手術、薬剤投与などの医療処置、バイタルサインやフィジカルエグザミネーション、血液検査、培養検査などの所見です(図1)。

図1


下の図表は、70歳代の男性の事例です(図2)。中心静脈カテーテルを挿入しています。体温が高く、心拍数も多くなっています。全身倦怠感や発汗があり、ドレッシング材がはがれかかっています。これらに注目しなければなりません。

図2


次に問題を明確化します。これには2つあります。一つは感染対策上の問題です。感染源、感染経路、感染伝播を促進するリスクを明らかにすること、感染対策上の問題点(患者、環境要因)を明らかにすることです。もう一つは、看護上の問題です。症状悪化の可能性と予測される問題を明らかにするとともに、症状や治療に伴う日常生活と精神面への影響を明らかにします。

浮かび上がってきた問題から感染対策や看護ケアの立案・実施をしていきます。感染対策としては、標準予防策、感染経路別予防策の実施、適切な医療器具の管理と必要性の検討などがあります。看護ケアでは、症状の悪化や症状緩和の予防、日常生活の援助、褥瘡や廃用症候群など二次障害予防のケアなどが重要になってきます。先ほどの事例では、術後イレウスを予防することで経口摂取が可能となり、輸液投与及び中心静脈カテーテルが不要となるので結果的に感染症を予防できます。したがって、それに向けての看護ケアのプランニングが必要となります。

尿道留置カテーテルのケアバンドルを紹介します。CDCガイドラインでは、1番目はカテーテルの適正使用ということで、患者をアセスメントし、カテーテルの必要性を検討すると記されています。2番目はカテーテル挿入の適切な手技です。手指衛生と無菌的な操作・正しい手順で挿入します。3番目はカテーテルの適切な管理で、手指衛生と個人防護具の着用や、閉塞・逆流の予防、正しい固定、患者ごとの排尿処理となっています。

中心静脈カテーテルのケアバンドルについては、CDCガイドラインでは、①手指衛生、②マキシマルバリアプリコーション、③クロルヘキシジンによる皮膚消毒、④患者にとっての最適なカテーテル挿入部位の選択、⑤カテーテルの必要性の検討が挙げられています。これらのうち、①と⑤は看護師ができる内容です。

もう一つ事例を紹介します(図3)。尿路感染症が真っ先に疑われます。ところがベッドサイドに行き、しっかりとアセスメントすると、術後の発熱は便秘によるものであることがわかりました。

図3


私たちは先入観で患者さんをみがちです。しかし、時には先入観が判断を誤らせることがあります。先入観なしで患者さんを観察するようにしましょう。

指定講演2

拡がってからはもう遅い! 嘔吐と下痢は最初が肝心

宮田貴紀 先生

感染管理認定看護師
独立行政法人 地域医療機能推進機構 埼玉メディカルセンター

嘔吐は、迷走神経にある嘔吐中枢が刺激されて起こります。大きく中枢性嘔吐、反射性嘔吐、精神性嘔吐に分けられます。感染症によって起こるのは反射性嘔吐です。

一方、下痢の原因は多様で、浸透圧性下痢、滲出性下痢、分泌性下痢、腸管運動異常などがあります。感染症で多いのは細菌性大腸炎やウイルス性大腸炎などの滲出性下痢と、エンテロトキシンによる腸炎などの分泌性下痢です。下痢がみられた場合、どこの臓器で起きているのかを考えなければなりません。大きく小腸型と大腸型に分けられ、小腸型だと水様便で、大腸型は粘液が多く、炎症による血便となるなど、それぞれに特徴があります(図1)。

図1


ただし、下痢を起こしているからといって細菌性下痢とは限らず、消化管出血や尿管結石、虫垂炎など小腸、大腸以外の疾患もあるので、何が原因かをアセスメントする必要があります。

下痢時では、いつ発症したか、何を食べたか、脱水の程度はどうか、ペットとどう接していたか、同室者や家族、面会者、職員に同症状が出ていないかなどをアセスメントします(図2)。

図2


特に注意したいのが発症時期で、入院後、72時間以内に発症した下痢はさまざまな要因がありますが、72時間以降の場合は、ほとんどはClostridium difficile Infectionが疑われます。面会で食べ物の差し入れがあった場合には、他の感染症も考慮します。

下の図表は、87歳女性の事例です(図3)。

図3


受け持ち看護師Aはとりあえず排泄介助を行い、そのあと医師に報告し、下痢の原因を明らかにするために追加情報(図4)を集めました。

図4


この女性の場合、入院してから72時間以上経ってからの下痢だったので、Clostridium difficile Infectionによる下痢の可能性があるということで、主治医と相談して輸液を開始し、腹部レントゲン検査、採血とCD toxin検査を行いました。その結果、CD toxinは陰性、腹部レントゲンでガスが著明だったため、一過性の下痢だろうということで様子を見ることになりました。翌日、同室の患者さん2名に嘔吐・下痢が出て、看護師Aにも同症状が現れました。ノロウイルス感染の流行時期の12月ということで、ノロウイルス迅速検査を行ったところ陽性で、個室での接触感染対策の実施となりました。患者家族に症状説明を行った際、孫が面会後、嘔吐・下痢症状を発症したという話が出たことから、先の追加情報にあった孫からの焼き菓子の差し入れが原因であることが判明しました。この事例からわかるように、差し入れについても情報を収集する必要があります。

この事例で感染が広がった理由は何でしょうか。第一は感染性胃腸炎を疑っていなかったことです。そのため、おむつ交換をいつもと同じ手順で行ってしまいました。共有トイレだったので、そこで他の患者さんに感染しました。結局、環境に付着したウイルスに気づかず感染が拡大したのです。

嘔吐・下痢時の対応のまとめとして、発生時には、全体的に広範囲な視点で疾患をアセスメントする必要があります。微生物は見えないだけにさまざまな場所に付着している可能性があるため、“いつの間にか感染”に注意しなければなりません。感染の原因となりうるものとして初期から対応しましょう。下痢時の対応は、流水と石けんによる手洗いが原則です。発症者への手指衛生方法の教育や協力も必要です。日常から高頻度に接触する環境を清拭消毒する、使用する物品は共有しないということも大切です。また、患者さんへの説明時にはプライバシー保護に努めてください。

感染対策の基本中の基本は手指衛生です。患者さんを待たせないサービスも大切ですが、患者さんや自分自身を感染から守ることが医療従事者(プロ)には求められます。感染を疑って初期対応で拡大を防ぎましょう。

指定講演3

その咳嗽、大丈夫? 長引くゴロゴロには要注意

武田由美 先生

感染症看護専門看護師/感染管理認定看護師
独立行政法人 国立病院機構西埼玉中央病院

咳嗽(がいそう)とは、気道内に貯留した分泌物や異物を気道外に排除するための生体防御反応です。喀痰の有無で、湿性咳嗽と乾性咳嗽に分けられます。喀痰のある湿性咳嗽は気道の過分泌が、喀痰のない乾性咳嗽は咳そのものが治療の対象となります。発症して3週目までが急性咳嗽で、その原因のほとんどは感染症です。咳嗽の症状が持続すればするほど、感染症以外の原因が多くなります。咳嗽の原因を調べる検査としては、胸部レントゲン、CT、血液検査などがあります(図1)。

図1


咳嗽を伴う重症化しうる感染性疾患として、肺炎と肺結核があります。肺炎は、細菌やウイルスが肺で炎症を起こすもので、日本人の死亡原因第3位というポピュラーな疾患です。主な症状は咳嗽、発熱、喀痰、頭痛、胸痛、倦怠感などです。

結核は結核菌による感染症です。肺結核や咽頭結核発病患者の咳嗽、くしゃみなどによって感染性飛沫核が発生します。その結核菌を含む飛沫核を吸入し、肺胞まで到達したときに感染が成立します。咳嗽、発熱、倦怠感、食欲不振、体重減少などの症状がみられます。結核の診断は難しく、一つの検査で診断がつくのは培養検査のみです。しかし培養検査の結果が出るまでには数週間かかります。その間、何もしないと感染を拡大させてしまう可能性があるので、いろいろな検査を組み合わせて診断します(図2)。

図2


潜在性結核感染から結核を発病するリスクとしては、HIV感染症、感染性結核患者との濃厚接触、未治療の結核治癒所見、標準体重より10%以下などがあります。

咳嗽がある人で結核が疑われるときは空気予防策を、結核以外の感染性の疾患の場合は飛沫予防策を行います。空気感染予防策はN95マスクの着用や陰圧個室への収容により、飛沫核を直接吸い込まないようにします。飛沫予防策は1~2 mその人から離れるか、サージカルマスクを着用します。

咳嗽症状がある患者さんに対し、発熱や呼吸困難などの症状の有無、周囲の流行状況、渡航歴、既往歴、服用中の薬剤の有無、ワクチン接種歴などをアセスメントします。次にフィジカルアセスメントを行います。このとき特に重要なのが胸部の副雑音の聴診です。

数年前に私が経験した失敗事例を紹介します(図3)。

図3


主治医は誤嚥性肺炎を疑い、胸部レントゲンを撮ったところ両肺野に陰影があったため、喀痰培養検査を行いMRSAが検出されました。これらから主治医は誤嚥性肺炎と診断し、抗菌薬投与を開始しました。私はこの頃から関わるようになったのですが、MRSA検出ということで個室隔離し、接触・飛沫予防策を行いました。しかし症状が改善しません。本日の指定講演の座長を務められている坂木先生から「抗酸菌塗抹検査をしましたか?」と質問され、ハッとしました。何度も培養検査を行っていたので、塗抹検査は当然したものと思い込んでいたのです。塗抹検査を行うと、ガフキー2号が検出され、その後、非結核性抗酸菌症と判明しました。もしこれが結核だったら、大変なことになっていたでしょう。思い込みをせずに柔軟に対応することの大切さを教えてくれた事例です。

高齢者の場合、症状や所見が現れにくいうえ、免疫力や身体的機能が低下しているので、感染リスクが高くなります。症状が急速に進むため、あらゆる疾患の可能性を考える必要があります。

結核患者を早期発見するには、全体の印象や全身症状、呼吸器系の症状がヒントになります(図4)。

図4


埼玉県の2016年の結核届出は60歳未満が606名、60歳以上が766名でした。そのうち、無症状病原体保有者が431名を占めています。決して、結核を対岸の火事と思わずに、日ごろからこれらの症状を観察し、アセスメントするようにしてください。

特別講演 座長

坂木晴世 先生

感染症看護専門看護師/感染管理認定看護師
独立行政法人 国立病院機構西埼玉中央病院

本日、特別講演を行ってくださる大曲貴夫先生は佐賀医科大学(現佐賀大学)をご卒業後、聖路加国際病院、米国テキサスヒューストン医科大学、静岡県立静岡がんセンターなどを経て、現在、国立国際医療研究センター病院にお勤めです。日本感染症学会、日本化学療法学会など多くの学会に所属され、インフェクションコントロールドクターをはじめとする多くの資格もお持ちです。非常に著名な先生でいらっしゃいますが、本日は多忙な中、当セミナーにお出でいただき大変嬉しく思っております。よろしくお願いいたします。

特別講演

感染症診療のロジック

大曲貴夫 先生

国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 副院長
国際感染症センター センター長

<はじめに>

症状を訴える患者さんが目の前に来たら、皆さんはまず年齢や性別、国籍、暮らしぶりなどを聞くのではないでしょうか。例えば工場勤務の人であれば、何かしらの曝露があるかもしれません。こうした患者背景から可能性のある病気を考え、それを踏まえて、身体のどこに問題があるのかを探るでしょう。咳中心の呼吸器の症状があれば肺の問題だと思い、肺が問題だとしたら、がんが原因なのか、アレルギーなのか、感染症なのかと具体的に考えていくでしょう。このように頭の中でどんな病気かを整理していくことは、診療するうえでとても大切です。だからこそ、患者さんからさまざまな情報を聞き出す能力、会話力が大事ですし、フィジカルアセスメントもしっかりできなければいけません。

ここまでは一般的な診療のすべてに共通する流れですが、発症の仕方によってはこの患者さんは感染症にかかっているのかもしれないと思うことがあります。そのときはギアを変えて、原因となる微生物を突き止めていく作業が必要となります。微生物が突き止められたら、診断がつけられ、どんな抗菌薬を使えばよいかがわかります。特に今は抗菌薬の適正使用が強く言われているので、この作業は欠かせません。それをやらなかったら、当てずっぽうの治療になってしまいます。また、フィジカルアセスメントをして適切な経過観察を行うことも大切です。それでも患者さんの病態が改善しなかったり、治療の経過に問題が起きたときは、診断を付け直さなければなりません。

<患者背景を理解する>

患者背景の話を具体的にお話ししていきます。特に既往歴のない45歳男性の症例です(図1)。

図1


8日前に発熱し、3日前に咳嗽や咽頭痛、激しい下痢があり、1月だったので胃腸炎と診断されましたが、翌日症状が遷延したため再診。肺炎と診断されて入院となりました。アレルギー歴はなく、ROS(review of system)では、それまでわかっていた事実とのズレはありませんでした(図2)。

フィジカルアセスメントでは、意識変容はなかったのですが、体温は39.6℃、呼吸数24、頭頸部に腫れがみられ、肺にクラックル聴取がありました(図3)。レントゲン画像では両肺に陰影が認められました。

図2

図3


この症例の場合、最初に疑われる病気は急性肺炎ですが、40歳代の男性でいきなり肺炎になることはありえません。急性肺炎でないとしたら、免疫不全など身体に重大な問題があるか、あるいは明らかな曝露があったと考えられます。再度、確認したところ、ドバイ、モロッコに渡航し、ヒトコブラクダに接触していたことがわかり、MERSが疑われるということで当院への転院となりました。国際化が進む今日において、渡航歴や曝露歴を必ず確認する必要があります。マラリアやデング熱など輸入感染症は最初に現れるのは発熱だけで、それ以外にはこれといった特異的な症状はありません。はっきりしないときこそ、輸入感染症の可能性も考え、渡航歴を聞くようにしてください。

<どの臓器の問題か?>

背景の情報を収集したら、次に身体のどこの臓器に問題があるかを考えます。1月に25歳女性が39℃の発熱があり調子が悪いと救急外来を受診してきたら、たいていの医療者はインフルエンザと見立てるのではないでしょうか。では、インフルエンザと感冒・急性上気道炎をどのように見分けますか? それには、まずインフルエンザのあるべき症状が何かを知ることです。あるべき症状がなければ、インフルエンザを否定できないけれど、その可能性は低いと判断することができます。インフルエンザの場合にあるべき症状は、咳です。アメリカの調査では、代表的な症状としてよく挙げられる発熱や関節痛は約半数にしか出ていませんでした。急性上気道炎では、初日から咳が出ることはなく、最初に鼻水が出て、3~4日目ごろから喉がいがらっぽくなって咳が出はじめ、1週間ほどの経過で治まります。

院内で発熱した患者さんのアセスメントも大事です。下の図表は、62歳男性の症例です(図4)。

図4


敗血症が疑われましたが、敗血症の早期の場合、体のどこに問題があるかは評価しにくいものです。意識変容がある場合はなおさらです。こうしたときには、院内感染症で頻度が高いものを思い出しましょう。尿路感染症、術創感染症、呼吸器感染症、血流感染症の4疾患で全体の8割を占めます。まずそれらを疑えばよいのです。この患者さんは、末梢カテーテルの挿入部位が赤く腫れていて、末梢カテーテル関連血流感染症であることが判明しました。

<原因となる微生物は?>

原因となる微生物を頭に浮かべ、感染症が疑われたら検体を適切に採取し、その結果から適切な治療法を選んでいきますが、これをきちんとするにはどうしたらよいか、症例を紹介します(図5)。

図5


体温は正常だけれども、胆管にステントが入り、血圧が低下していて脈が速いことから、感染症を疑い血液培養を行ったところ、大腸菌が検出され、腎盂腎炎と診断されました。この症例からわかるように、体温以外に敗血症を示唆する指標は、意識の変容、血圧の低下、呼吸数の多さなどいくつもあります。この患者さんの場合は、指標がたくさんあったので血液培養をとる必要があったのです。

<適切な経過観察>

経過観察についてお話しします。下の図表は、55歳女性の症例です(図6)。

図6


主治医は中心静脈ラインの刺入部からのカテーテル感染症を疑い、血液培養を採取し、カテーテルを抜去しました。血液培養の結果はカンジダ陽性でした。翌日には熱が下がり、元気な様子だったため退院となりました。ところが退院後に両眼真菌性眼内炎の疑いが出たのです。両眼真菌性眼内炎はカテーテル関連血流感染症の約4割の患者さんにみられる合併症で、最悪の場合、失明に至ることもあります。カテーテル関連血流感染症の場合、退院時に無症状であっても必ず眼内炎の有無を調べなければなりません。これも経過観察の一つです。カテーテル感染症は当然ながらカテーテルを挿入しなければ発症しません。換言すれば、私たち医療者がつくった病気です。ならば、医療者の責任として、最後まで見届けなければなりません。

感染症を評価する際には、「患者背景を理解」「どの臓器の問題か?」「原因となる微生物は?」「抗菌薬の選択」「適切な経過観察」を書き出し、整理してください。それを繰り返していくうちに次第に感染症の診療がわかるようになってきます。それをぜひ体感していただきたいと思います。

共 催:
日本メガケア株式会社、株式会社MMコーポレション、東邦薬品株式会社、株式会社メディコ、源川医科器械株式会社、中日本メディカルリンク株式会社、株式会社ジェイ・エム・エス
後 援:
公益社団法人埼玉臨床工学技士会、公益社団法人埼玉県看護協会、一般社団法人日本医療機器学会
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