医療関連感染防止対策セミナーレポート

開催:広島  2016 年3月5日

講演内容 演者氏名/ 病院名
【指定講演】
座長 桑原正雄 先生 / 広島県感染症・疾病管理センター
〔医療材料/感染対策〕
【指定講演1】
針刺し切創防止の取り組みと広島県の針刺し切創の現状

~新しい安全機構付き留置針の導入経緯を踏まえて~
木村将和 先生 / 中電病院
〔医療材料/感染対策〕
【指定講演2】CLABSI低減へのアプローチ
~閉鎖式輸液ラインの導入を試みて~
大賀香織 先生 / 益田赤十字病院
〔院内活動/感染対策〕
【指定講演3】ノロウイルス対策
~事例を通して~
今﨑美香 先生 / 県立広島病院
〔院内活動/感染対策〕
【指定講演4】インフルエンザ集団発生事案の対応とマニュアルについて
山根克也 先生 / 医療法人社団仁慈会 安田病院
【特別講演】
座長 桑原正雄 先生 / 広島県感染症・疾病管理センター
消毒薬の適正使用について
~有害、危険、不経済、無効、過剰な使い方をしていませんか~
尾家重治 先生 / 山口大学医学部附属病院

医療関連感染防止対策セミナー
2016 in 中国

  • 日時:2016 年 3 月 5 日
  • 場所:広島国際会議場 B-2F コスモス

指定講演 座長

桑原正雄 先生

広島県感染症・疾病管理センター センター長

このセミナーは、(株)ジェイ・エム・エスの本社がある広島で第1回が開催され、以降、毎年全国各地で行われており、本日は52回目となります。広島で開催される折には、私がいつもコーディネートを務めさせていただいておりまして、本日は指定講演4題、特別講演1題をプログラムいたしました。

指定講演の最初の2題は、医療安全や医療材料などに関する発表、後半の2題は日ごろどの施設でも苦労されている身近な感染症について、事例を含めてお話しいただきます。どれも明日からの感染症対策に役立つ内容だと期待しております。よろしくお願いいたします。

指定講演1 〔医療材料/感染対策〕

針刺し切創防止の取り組みと広島県の針刺し切創の現状
〜新しい安全機構付き留置針の導入経緯を踏まえて〜

木村将和 先生

感染管理認定看護師
中国電力(株)中電病院 感染対策室 院内感染管理者

針刺し事故(針刺し切創)とは、注射針や静脈留置針などを扱う医療施設の職員が、患者さんの血液などに触れた針を、自身の体に誤って刺してしまう事故をいいます。

血液曝露の本当の恐ろしさは、血液媒介感染症にかかる可能性があることです。血液は無菌的に見えてもさまざまな病原体を含んでいる可能性があります。針刺し切創や傷のある皮膚や粘膜へ血液・体液が接触することにより、体内に侵入して職業感染が成立します。原因となる微生物には多くのものがありますが、特にHBV、HCV、HIVの3つは注目すべき病原体です。

広島県の現状を調べるために、広島ICT活動研修会に参加した17施設にアンケート調査を行いました。エイズ拠点病院における100稼働床あたりの針刺し件数は全国平均が6.4件に対し、広島県は4.8件と若干低かったものの(図1)、施設によっては平均よりも高いところもありました。曝露源の感染症の有無では、25%がHCV、HBV3.9%、HIV1.1%でした。この調査から、HIV内服、肝炎ワクチンを含めて針刺し切創防止対策は重要であることを再確認しました。

当院でも、針刺し切創調査を行いました。その結果、経験年数が2年以下の者に多く発生している、基本的ルールや技術が不足していることなどが明らかになりました。そこでICTでは教育、ラウンド、情報の共有と機材の再検討を通して介入していくことにしました。ここでは新機材の導入経緯について話を進めます。

図1

 

● 翼状針型の留置針の導入とその評価

現場で求められる機材の要素として、「誰が使用しても安全である」「操作が簡単で構造が単純」「使いやすい」「コストが安い」などが挙げられます。スタッフがそれまで使っていたものと相互性があると普及しやすいと思います。新たに医療器材を導入する際には、実際に事故が起こっており、危険性が高い機材に対して新たに対策が講じられた機材で危険が回避できるものであることは重要視されると思います。そのうえで、誰もが使いやすく、特別なレクチャーの必要がないものがよいと思います。それでも正しく使えないスタッフがおり、教育が難しいという課題が残ります。

学会で、システマチックに針刺し切創を防止させたい、看護師に安全に医療を提供させたいと発表したところ、メーカーから翼状針型の留置針Safewing cath(以下、SWC)の提案がありました。SWCは、穿刺が翼状針と同じようにできる、針が格納されるため針先が露出しない、輸液セットに接続してから穿刺できるので汚染がないという特徴をもっています。これならばキャップを外す際の切創はなくなる、看護師の操作が簡単、手順が簡単で血液汚染が減少すると考えました。その一方、今までの留置針とは全く異なり、現場が混乱して針刺し切創を増加させるのではないかという不安もありました。使用頻度が高い外来や中央採血室でサンプル展開したところ好印象で、採用へ進み始めました。

ここで問題になったのがコストです。従来品は約100円、SWCは約130円かかります。しかし、従来品は三方活栓とルートが必要ですが、SWCは三方活栓だけで済みます。これらを考慮するとSWCのほうが安くなるということで、衛生材料審議委員会の承認を得ることができました。ただし、翼状針の代わりとして使用しないこと、SWCの適応基準を作成することという条件を出されました。

SWCの使用対象者は、確実に穿刺できる人および外来・健診で長時間留置が必要となる人としました。また、全部署に手順書を配布してプレゼンテーションを行いました。慣れた機材を使いたい看護師がいたり、リーダーシップをとる人がいなかったりして、導入当初は普及が難しい面もありました。それでも中央採血室の看護師に聞き取り調査を行うと、8割以上が針刺し切創への不安が減少したと回答(図2)。30%が慣れれば院内での使用拡大が望めると答えました。SWCは、長時間の点滴が予測される場合や日帰りの検査や処置の際に多く使われていました。逆に、針の全長が短く、血管内に十分な長さを留置できない症例があることがわかりました(図3)。

新機材導入の際には、定期的なフォローが必要です。なぜならば時間の経過とともにローカルルールが確立されたり、工程や手順が省略されることがあるからです。そのためにはラウンドにより現状を確認する必要があります。新機材の導入初期には普及が難しいので、一人でも多くのスペシャリストをつくることも大切だと思います。

図2

図3

指定講演2 〔医療材料/感染対策〕

CLABSI低減へのアプローチ 〜閉鎖式輸液ラインの導入を試みて〜

大賀香織 先生

感染管理認定看護師
日本赤十字社 益田赤十字病院 感染管理推進室 看護係長

私が担当する病棟のCVカテーテルを入れている患者さんに、発熱が多いと感じていました。そこで、中心静脈カテーテル関連血流サーベイランス(CLABSI)を実施することにしました。対象は消化器内科と外科病棟で、平成25年9月より開始しました。PICCは含みますがCVポートは対象外としました。基準判定は日本環境感染学会のサーベイランスに基づき、臨床的敗血症を含むものとしました。結果を図1に示します。当院の感染率は5.9で日本環境感染学会が出している感染率の90パーセンタイル値4.9を超えており、非常に高い感染率であることがわかりました。ただし、当時は血液培養2セットを取ることが浸透しておらず、8件中6件が臨床的敗血症の判定だったため、少し高めの感染率になったのかもしれません。

とはいえ、感染率が高いことには違いないので、さらに詳しく調べてみました。感染ありと判定した8人のデータが図2です。8人に共通していたのは、三方活栓を使用して側注がされていたこと、感染を診断した日が挿入時から日数が経過していたことです。このことから、挿入後に何らかの原因で輸液ライン接続部から感染したのではないかと思われました。

そこで、院内感染防止対策委員会に2点を提案しました。1点は、カテーテル関連血流感染対応マニュアルを作成し、挿入部の消毒方法や、点滴を取り扱うときの手指消毒の徹底など、手順の統一を図ることです。もう1点は、閉鎖式輸液ラインの導入です。これについては、1部署でサンプリングを行い、結果を同委員会に報告するよう指示されました。

図1

図2

 

 

 

● プラネクタ輸液ラインシステム導入とその結果

ICT、病棟看護師(リンクナース)、医療安全専従リスクマネージャー、用度課で話し合い、ジェイ・エム・エス社のプラネクタ輸液ラインシステムでサンプリングすることにしました。プラネクタ輸液ラインシステム選択の決め手となったのは、デッドスペースがない、消毒しやすい形状である、プラネクタを組み込んだ一体化ラインであることでした。

サンプリングを行うのは消化器内科・外科病棟の48床で、CVカテーテルを挿入した患者さんを使用対象としました。また、サンプリングの際にはマニュアルの内容を遵守してもらうよう、病棟に出向いて説明しました。特に側注前の手指消毒と輸液ラインの24時間以内の交換、アルコール綿での5回清拭については強調して指導しました。

サンプリング準備中の9月と開始後の1月に各1件の感染がありました。開始後の感染症例は閉鎖式輸液ラインが不足し、従来のものを使用していました(図3)。平成25年9月〜平成27年2月までのCLABSIについて調べたところ、CLABSI群は非CLABSI群の使用日数よりも有意差をもって長い結果が得られ、不要なCVカテーテルは早急に抜去すべきであることがわかりました。そうはいっても治療上、必要なカテーテルもあるということで、マニュアルを周知徹底し、適切な輸液ラインの管理が必要であること、接続部からの感染を減らすための対策が必要であること、プラネクタ輸液ラインシステムを使用して半年間感染例が出ていないことから閉鎖式輸液ラインの導入は効果がある対策であることを感染防止対策委員会に報告しました。その結果、平成27年7月より全館のCVカテーテルに閉鎖式輸液ラインの使用が許可されました。

サーベイランスを開始して最初の1年間とその後の1年間の感染率を見てみると、最初の年は5.9であったのが、その後は2.4になり、減少率は59.3%でした(図4)。閉鎖式輸液ラインの導入とマニュアルを統一したことは非常に有効であったと思います。 また、輸液ポンプの買い替え時期だったので、輸液ポンプについても検討し、ICTが相談窓口になることにして、輸液ラインと同じジェイ・エム・エス社製の導入となりました。

当院では現在、閉鎖式輸液ラインの使用はCVカテーテルのみで、末梢カテーテルには従来の輸液ラインと三方活栓を使用しているため、輸液ラインの種類が多く混在しています。インシデントやアクシデントを防ぐためには種類を減らし、整理する必要があると感じています。また、マニュアルが遵守されているか、閉鎖式輸液ラインが正しく使用されているかなどをチェックすることも必要です。今回は閉鎖式輸液ラインの導入が感染症防止に効果があることがわかりましたが、その他の要因で感染が起きていないか、今後も継続して見ていきたいと思っています。

図3

図4

指定講演3 〔院内活動/感染対策〕

ノロウイルス対策 〜事例を通して〜

今﨑美香 先生

感染管理認定看護師
県立広島病院 医療安全管理部

ノロウイルスはGⅠ〜GⅤの5つの遺伝子群が存在していますが、ヒトに感染するのはGⅠ、GⅡ、GⅣです。多くの遺伝子型が存在するだけでなく、遺伝子の組み換えが頻繁に起きています。これまでGⅡ・4が多く検出されていましたが、2015年からは新しい遺伝子型GⅡ・17の検出が増え、広島県で同年に起きた集団感染でもこの型が検出されています。現段階では、GⅡ・17に対する免疫をもたない集団が多いことが予測され、ノロウイルスの集団発生が懸念されています。

ノロウイルス迅速検査は感度が低く、陽性であっても陰性と出てしまうことがあります。よって、原因不明の下痢や嘔気・嘔吐のいずれかの症状がある場合は感染性腸炎を疑い、病名がわからないときはまず、感染力がもっとも強いノロウイルス対策を行います。職員にこのような症状があった場合は就業制限をかける必要があります。さらに、地域の流行状況や、二枚貝や生ものを食べていないかなど、バックグラウンドについて情報収集することも重要です。

● ノロウイルス集団感染の原因とその対策

平成27年10月に厚生労働省から通知が出され、ノロウイルスへの注意喚起がされました。当院でもノロウイルスやインフルエンザ対策の研修会を開くなど流行に備えて対応していましたが、同年12月17日に看護師長より「12月14日に感染性腸炎の疑いで入院した患者さんに関わった看護師4名が下痢、嘔吐などの感染性腸炎症状を発症している。患者さんはノロウイルス迅速検査で陰性だったので2人部屋にて入院中」との報告がありました。すぐに緊急会議を開き、「濃厚接触者判定の決定」「濃厚接触患者の病室への入院制限」「患者・家族への協力依頼」「病棟入口に注意喚起のポスター掲示」「全部署への注意喚起の通知」「関連部署へ連絡、情報提供」を決定しました。

交差感染の原因を検索するため、状況確認したところ、①患者さんは入院後下痢症状のみで嘔吐はなかった、②おむつ、またはポータブルトイレで排泄していた、③排泄介助時には必ず手袋とエプロンを着用していた、ということがわかりました。しかし、感染拡大している事から、今回の感染原因として、陰部洗浄時の飛沫感染、環境からの接触感染、個人防護具の不適切な着脱、手指衛生の不徹底などが考えられました。そこで、陰部洗浄時など飛沫を浴びる可能性がある処置をする際には、手袋、エプロンに加え、サージカルマスクを着用するように指導しました。環境からの汚染に対しては、適切な消毒薬による環境消毒と物理的除去を依頼しました。ノロウイルスに対する消毒薬については、厚生労働省が次亜塩素酸ナトリウムを推奨しています。また、2014年11月発行の「消毒と滅菌のガイドライン」には次亜塩素酸ナトリウムとアルコール、ペルオキソ一硫酸水素カリウムが載っています(図1)。これら3種の消毒薬にはそれぞれメリット・デメリットがあるため、施設に合ったものを導入するとよいと思います。いずれにしても、消毒する際は「なでる」のではなく、「ごしごしこする」ことがポイントです。

また、消毒の手順についても明確にする必要があります。例えばトイレをクロス1枚で拭く場合、ドアノブ、手すり、タッチパネル、便座の表、便座の裏と汚染度の低いところから高いところへと拭くことで汚染拡大を防ぐことができます。誰でも同じ手順で実施できるように手順書を作成しておくことが必要です。個人防護具についても、付けるときは手袋が最後、外すときは手袋を最初にすることが重要です。さらに、個人防護具を外す際には、汚染した箇所に触れないようにする必要があります。こうしたことが守られているか、全スタッフへの個人防護具の着脱方法のチェックと指導を依頼しました(図2・3)。また、ノロウイルスはアルコールが効きにくいため、石けんと流水による手洗いで物理的除去を図る必要があります。親指や指間、指先、掌のしわ、手首など、洗い残しが多い箇所を意識しながら30秒以上かけて洗い流すように指導しました(図4)。

こうした対応を行った結果、新たな感染の発症は認めず、最終発症から7日経過した時点で終息宣言を出しました。

今回の事例を通して、患者さんおよび患者さんの周りの情報を早期にキャッチすること、感染性腸炎が疑われる場合は確定診断がつくまではノロウイルス対策を講じること、日ごろから標準予防策を徹底することが重要と改めて思いました。

図1

図2

 

 

図3

図4

 

 

指定講演4 〔院内活動/感染対策〕

インフルエンザ集団発生事案の対応とマニュアルについて

山根克也 先生

感染管理認定看護師
医療法人社団仁慈会 安田病院 感染対策課

当院では2015年12月末にインフルエンザのアウトブレイクが発生しました。延べ98名が発症し、うち1名が亡くなられ、全国に大きく報道されました。この事案の問題点をいくつか挙げてみます。当時、予防内服の取り決めがなく、インフルエンザ患者さんの同室者への予防内服実施は1月5日、全職員へは1月9日からで、予防内服に対する認識や投与範囲に問題があったと考えます(図1)。ちなみに職員への予防投与にかかった費用は917,600円、患者さんや入所者が487,680円、計1,405,280円です。言い換えれば、病院や関連施設には感染症によるアウトブレイクと、その終息には多額の費用がかかるリスクが潜在しているということです。

日本感染症学会は、「施設内での流行伝播に、職員が関与していると考えられる場合、特に職員の間でインフルエンザ発症が続く場合は、職員も同時に予防投与が必要」と提言しています。昨年のアウトブレイクはまさにこれにあてはまる事象でした。

昨年度のアウトブレイクでは、インフルエンザ症例発生時の対応にも問題がありました。4人部屋で1名発生し、その人(Aさん)を個室に移動。別室の2人部屋で1人(Eさん)が発症。別室に移動したFさんが3日後に発症。その後、Cさん、Dさんも発症しました(図2)。部屋移動は禁止し、様子を見るとともに予防内服を実施する必要があったのではないかと考えています。

職員は、体調不良でも出勤していました。仕事中はマスクをしていても、休憩中や食事中にマスクを外せば交差感染が起きる可能性があります。昨年度のアウトブレイクではこのケースで感染したと思われる職員が数名いました。

当院のインフルエンザ迅速抗原検査による陽性者の状況を見てみると、毎年同じではありません。県内・地域における動向情報の把握が重要だったと思います(図3)。

図1

図2

 

 

図3

 

 

 

● インフルエンザ集団発生後の対策

これらのことを踏まえ、院内マニュアルの改訂を行いました。隔離やコホートに関する事項は、イラストでわかりやすく表現しました。また、インフルエンザ発生を「地域未発生期」「地域及び院内発生早期」「地域流行期・院内発生期」の3段階のフェーズに分けて、それぞれの目的と状態から対策を講じることにしました(図4)。各段階の対策として、情報収集、各部署の発生状況の把握と報告体制、予防・蔓延防止策、情報提供・共有についてまとめています。各部署にお願いして職員や家族を含めたインフルエンザ発生情報をシートに入力してもらい、集約・管理しました。さらに地域の発生状況を元にグラフにするなどして可視化、それを来院者に情報提供するようにしました。

検査実施ポリシーとして、外来でインフルエンザのリスクを判断し、基準にあてはめて検査を実施するシステムにしました。平成26年度の37.5℃未満のインフルエンザ確定者は全体の15.6%、平成27年度は36.7%、37.0℃未満は21%でした。このことからも体温だけではなく、風邪症状や周囲にインフルエンザ発症者がいるといったリスクから判断し、検査を実施するほうがよいと思われました。

予防内服ポリシーは、入院患者に対しては発症者の同室患者を原則としました。職員に対しては、インフルエンザを発症した職員との接触により発症リスクが高い場合としました。

面会制限・面会禁止の基準は、保健所情報と院内発生状況の2つを設定し、どちらかを満たした場合に院内で検討・実施することにしました。

クリアするべき課題として、ポスターがあまり見てもらえないこと、患者や面会者への説明、イレギュラーに対して統一した対応が必要であることが挙げられます。これらの課題は、現場の混乱を少なくするためにも一つひとつクリアしてシステムを構築していかなければならないと考えています。その他の取り組みとして、職員のインフルエンザワクチン接種費用の全額補助、職員が体調不良時に休める職場風土づくり、同居家族のインフルエンザ発症時の申告制があります。

昨年度の経験を踏まえ、今回のマニュアル作成で留意したことは、いくつかの対策を同時に行えるようにしておくこと、周囲の理解を得やすくするために組織的な対策を実施すること、コストがかかるものに対してもマニュアルに記載し、早期に対応できるようにしておくことです。真に使えるマニュアルにするためには、紙や電子媒体として保管するのではなく実際に使い、問題点を明らかにし、評価、見直しをかけるPDCAサイクルを回してバージョンアップをしていくことが何よりも重要と考えています。

図4

特別講演 座長

桑原正雄 先生

広島県感染症・疾病管理センター センター長

私たちはふだん何気なく消毒薬を使用していますが、消毒薬についての知識は十分ではありません。尾家重治先生は消毒薬について詳しくお話をしていただける第一人者で、これまで何度も広島でご講演いただいておりますが、そのたびにたくさんのことを学ばせていただいております。本日は消毒薬の適正使用についてご講演いただきます。非常に楽しいお話ですので、最後までしっかりと聞いていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

 

特別講演

消毒薬の適正使用について
~有害、危険、不経済、無効、過剰な使い方をしていませんか~

尾家 重治 先生

准教授
山口大学医学部附属病院 薬剤部

● 高水準消毒薬の特徴と使用上の留意点

消毒薬は、強い順から「高水準消毒薬」「中水準消毒薬」「低水準消毒薬」に分けられます(図1)。高水準消毒薬には、過酢酸製剤、グルタラール製剤、フタラール製剤の3つがあり、グルタラール製剤とフタラール製剤はホルマリンと同じような化合物です。

高水準消毒薬はすべての微生物はもちろんのこと、芽胞にも有効です。したがって滅菌もできます。ただし、高水準消毒薬が適しているのは、熱処理ができず、観血的処置になり、さまざまな微生物が付く可能性がある内視鏡のみです(図2)。これ以外の目的には絶対に使用しないでください。高水準消毒薬は毒性も強く、結膜炎や鼻炎、喘息の原因となることがあります。

高水準消毒薬は空気より重いので、換気扇が上にある場所で使用するのは望ましくありません。換気扇が下にあっても、消毒薬の蓋を開けたり、薬液を充填する際に曝露の危険があるので、高水準消毒薬専用のマスクを着用しましょう。高水準消毒薬が皮膚に付着すると、化学熱傷を起こすので、皮膚への付着にも十分な注意が必要です。機械洗浄が理想ですが、浸漬消毒をするときは、消毒後、水道水でよく洗い流します。

内視鏡には高水準消毒薬を使用するべきですし、世界中で感染症例はまだ1例も報告されていません。しかし、換気装置がない場所で使う場合は、中水準消毒薬の0.1%次亜塩素酸ナトリウム液に30分浸漬し、その後十分にリンスしてください。

図1. 微生物の消毒薬抵抗性の強さ、および消毒薬の抗菌スペクトル
*1 一部のウイルスの消毒薬抵抗性は、一般細菌と同程度である。
*2 枯草菌の芽胞に対するフタラールの効果は弱い。
*3 両性界面活性剤は結核菌にも有効である。

図2.内視鏡の消毒には高水準消毒薬が適している

 

 

 

 

● 中水準消毒薬の特徴と使用上の留意点

中水準消毒薬には、今出た次亜塩素酸ナトリウムのほかに、ポビドンヨード、アルコールがあります。次亜塩素酸ナトリウムは効果的には高水準消毒薬と同じで、すべての微生物に有効です。しかし、汚れに弱いため、中水準消毒薬に分類されています。ポビドンヨードとアルコールは芽胞には効きません。

次亜塩素酸ナトリウムは蛋白質と反応すると食塩(NaCl)になる低残留性です。したがって食べ物関係の消毒に適しており、広く用いられています。まな板は熱湯をかけるのが一番良いのですが、熱湯でやけどの危険がある場合には、次亜塩素酸ナトリウムが適しています。また、リネンにも適しています。リネンは、通常、消毒薬で消毒後、すすいでも消毒薬が生地に残るのですが、次亜塩素酸ナトリウムは乾かしているときに塩素ガス(Cl2)となって飛んでしまうので、リネンに残りません。リネンを次亜塩素酸ナトリウムで消毒する際に、洗濯物と一緒に次亜塩素酸ナトリウムを投入する施設があるようですが、汚れと次亜塩素酸ナトリウムが反応するので、これでは全く効果が得られません。次亜塩素酸ナトリウムは、すすぎをして最後の段階で投入してください。次亜塩素酸ナトリウムは汚れに弱いことを知っておくことが大切です。次亜塩素酸ナトリウムはプラスチック製品の消毒にも適しています。

かつて、当院のICUで3名からセパシア菌が感染したことがありました。元々当院では、超音波ネプライザを1日1回24時間ごとに、0.01%の次亜塩素酸ナトリウムに1時間浸漬していました。ところがその病棟の看護師長が1週間に1回で十分と本に書いてあるのを見て変更。その途端に感染事例が出ました。超音波ネブライザのような呼吸器関連の機材は、1日1回24時間ごとに0.01%の次亜塩素酸ナトリウムに1時間浸漬します。また、次亜塩素酸ナトリウムは24時間ごとに交換します。尿器や便器に、0.1%次亜塩素酸ナトリウム液を使用している施設も多いと思います。この場合は7日ごとの交換でOKです。

次亜塩素酸ナトリウムは芽胞にも強いので、大腸炎関連のディフシル菌には0.1%次亜塩素酸ナトリウムで対応します。便器が汚れている場合には1%で清拭します。あまり広範囲を消毒すると塩素ガスが発生し、粘膜を刺激するので避けたほうがよいでしょう。時々、次亜塩素酸ナトリウムをタオルなどに浸み込ませ、トイレの前や給食室の床などに置いてある施設が見受けられます。塩素ガスの多量発生につながるので、止めましょう。

次亜塩素酸ナトリウムに浸漬する際には、塩素ガスの曝露を防ぐために落とし蓋をします。次亜塩素酸ナトリウムは、金属に使用すると腐食します。また、色物、柄物は脱色されてしまうので、これらへの使用は避けましょう。

哺乳瓶のように重要な消毒対象物は、製造年月日や有効期限、濃度が記されている医療品の次亜塩素酸ナトリウムを使いましょう。次亜塩素酸ナトリウムは直射日光に非常に弱いので、直射日光の当たらない場所で保管してください(図3)。

パルプや木にも弱く、ペーパータオルに浸み込ませて木製品を消毒しても、全く効果を発揮しません。吐物の上に新聞紙を置き、その上から次亜塩素酸ナトリウムで消毒しても効果はゼロです。吐物を取り除き、次亜塩素酸ナトリウムをレーヨンや綿などに浸み込ませて清拭するのが正しいやり方です。

ポビドンヨードは生体の消毒に用います。術前消毒によく使われますが、患者さんと手術台の間に溜まるほどの大量使用を避けます。吸水シートなどを敷いて、長時間湿潤状態に接触させないようにしましょう。

アルコール(エタノール)は、60〜80%が消毒、5〜40%は飲用、5%前後は保存に用いられます。アルコールの良い点は、10秒くらいですぐに効果が発現することです。血液培養検体採血時や術前のような厳重な消毒が必要な場合には、0.5%あるいは1%のクロルヘキシジン混合のアルコールが用いられます。アルコールは引火性があるので、電気メスなどを使用する際には、十分な乾燥を確認してからにしてください。

速乾性手指消毒薬は、石けんと流水による手洗いより効果が高いので汎用されています。しかし、多幸感があるので飲む人がいます。ちなみに、米国では速乾性消毒薬にアルコールと表示することが禁止されています。また、速乾性手指消毒薬は脱脂作用が強いので、使いすぎると手荒れを起こします。手には通常、表皮ブドウ球菌などの善玉菌がたくさん存在します。手が荒れるとこれらの善玉菌が減り、緑膿菌やセラチア菌などの悪玉菌が付着しやすくなります。手荒れの治療にステロイド剤がよく用いられますが、ステロイド剤には免疫抑制作用があるため、さらに菌が付きやすくなります。このように手荒れは“動く感染源”となることがあるので、速乾性消毒薬は手荒れを生じない程度に使用しましょう。なお、石けんと流水での手洗い後に速乾性手指消毒薬を使うと脱脂が進み、さらに手荒れを起こしやすくします。通常はどちらかにしましょう。

ノロウイルス対策には次亜塩素酸ナトリウムが、一番効果が高いことがわかっています。ペルオキソ一硫酸水素カリウムも効果が高いです。次亜塩素酸ナトリウムが使えない木製の手すりなどの清拭には消毒用アルコールで2度拭きすると安心です。金属部分も消毒用アルコールで清拭します。環境消毒には、界面活性剤入りのアルコールを使うとよいでしょう。ノロウイルスの消毒で気をつけてほしいのは、汚れを取ってから消毒することです。菌は7〜8m飛ぶといわれるので、広範囲に消毒します。飛沫感染のみならず、空気感染することが知られているので、吐物処理の際にはN95マスクを着用したほうがよいでしょう。

図3.直射日光下での0.1%(1,000ppm)次亜塩素酸ナトリウムの安定性

 

 

 

● 低水準消毒薬の特徴と使用上の留意点

低水準消毒薬にはクロルヘキシジン、ベンザルコニウム塩化物、両性界面活性剤があります。低水準消毒薬はウイルスに弱いですが、院内感染の大半はMRSAや緑膿菌などの酵母様真菌なので、創部や器材、環境消毒など広く用いられます。ただし、濃度間違いには注意しましょう。例えば、クロルヘキシジンは創部の消毒に非常に有効で、0.05%が使用されます。間違って0.5%にすると、ショックを起こし、最悪の場合、死に至ります。

細菌汚染への注意も必要です。綿球に浸み込ませて作り置きした場合は、24時間で廃棄してください。スプレー容器は汚染されやすいので、注ぎ足しての使用は止めます。どうしても注ぎ足したいときは、よく洗い、十分に乾かしてから使用しましょう。

共 催:
株式会社 カワニシ、株式会社 サンキ、株式会社 セイエル、鳥取医療器 株式会社、株式会社 ジェイ・エム・エス
後 援:
公益社団法人 広島県薬剤師会、公益社団法人 広島県看護協会、一般社団法人 日本医療機器学会
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