JMS情報誌「SIESTA」インタビュー

岐阜県揖斐郡

JA岐阜厚生連
岐阜・西濃医療センター
西濃厚生病院

 国や県は団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年に向け、効率的な医療提供を目指す地域医療構想を推進している。この方針に沿って岐阜県農業協同組合連合会(JA岐阜厚生連)も病床再編・病院統合を進めてきた。岐阜県の西濃医療圏では2つの厚生連病院が病床再編され、新たに「岐阜・西濃医療センター西濃厚生病院」が開院した。

■ 過疎化が進む地域病院が抱える課題解決に向けて

病院長 西脇伸二氏
 西濃医療圏は岐阜県内最西部エリアで、その北部の揖斐いび川町(揖斐郡)には揖斐厚生病院、南部の養老町(養老郡)には西美濃厚生病院が長年にわたって地域医療を担ってきた。
 揖斐川町、養老町ともに過疎化が進み、人口減少に歯止めがかからず、ついに2万人を切るまでになった。しかも、その傾向は今後も続くと見込まれる。人口減少は即ち患者減少であり、病院経営の厳しさが増すことは明らかだった。
 両病院ともに300床ほどの中規模病院で、急性期医療と慢性期医療の双方に対応するケアミックス型病院だった。こうしたタイプの病院がそうであるように、両病院とも医師不足に悩まされていた。しかも現行の医師臨床研修制度のもとでは、研修制度が整っていない病院への大学病院からの医師派遣はほとんど望めなかった。
 このままでは病院存続は困難と判断したJA岐阜厚生連はこれら2つの病院の機能を集約した病院を別の場所に新たに建設する計画を打ち出した。その計画では、揖斐厚生病院は移転、西美濃厚生病院は医療機能や規模を縮小し、介護医療院を併設して事業を継続することが盛り込まれていた。これに対し、両自治体の議会や住民から医療難民になると反対の声が起こった。
 当時、揖斐厚生病院院長で、のちに新病院院長となる西脇伸二氏は議会に何度も足を運んで丁寧な説明を繰り返した。「揖斐町の議会や住民の方々には、揖斐厚生病院の跡地に診療所が入り、そこが新病院の窓口になり、救急医療が必要なときはすぐに新病院で診て、急性期の治療が終わったら診療所に戻すという連携体制で地域医療を守ることをお話ししました。新病院から少し距離のある養老町では、西美濃厚生病院は耐震改修を行い、慢性期医療と外来機能を維持し、外来診療の医師を新病院から派遣することや、新病院と西美濃厚生病院の間にシャトルバスを走らせることもお伝えしました」
 こうした説明を聞き安心したのだろう。議会や住民からの反対の声は徐々に静まっていった。

■ 最新医療機器の導入で大学病院との連携を密に

 2021年11月、新病院の建設工事が着工した。場所は揖斐郡大野町、東海環状自動車道大野神戸インターチェンジの東側の幹線道路沿いという交通至便なところだ。東海環状自動車道は愛知県、岐阜県、三重県の3県をまたがる高規格道路で、8割以上がすでに完成している。
 工事は順調に進んでいったが、新病院には開院までに解決しておかなければならないもう一つの課題があった。「廃院となる揖斐厚生病院の医師は全員新病院に移りますが、慢性期医療などを引き続き行う西美濃厚生病院には、ある程度医師を残さなくてはいけません。そうなるとどうしても新病院の医師が不足します」。西脇氏は岐阜大学医学部附属病院の各医局に医師派遣を要請した。
 「新病院では新しい医療機器を導入し、高度な急性期医療を行うことができるので、大学病院と連携した教育機関や研究機関になり得ることを強調しました。大学病院側もそうした連携先を求めていたということで、開院前には大学病院からの医師確保の目処が立ち、ホッとしました」と西脇氏は振り返る。
 開院日を10日ほど後に控えた頃、新病院の内覧会が行われた。当日、思いもしなかった光景が広がった。朝から新病院を一目見ようとやってきた地域住民の車で病院周辺の道路が大渋滞となったのだ。「皆さんの新病院への期待の高さを知り、私たちスタッフ一同、身が引き締まる思いでした」。
 2023年10月2日、病床数400床、地上6階の「西濃厚生病院」がオープンした。

手術支援ロボット「ダヴィンチ」

■ 回復期リハ病床や緩和ケア病棟を新たに設置

緩和ケア病床のナースステーション
 西濃厚生病院は揖斐厚生病院、西美濃厚生病院にはなかった機能や設備を備えている。その一つが災害拠点病院としての機能を持ったことだ。この辺り一帯は揖斐川とその支流である根尾川の合流地域で、川は地面より高いところを流れている。万一、川の堤防が決壊しても病院機能がストップしないように、敷地は周辺道路より5mかさ上げされた。また、屋上へリポートを設置したほか、コロナ感染など感染症に対応する外来や病棟も整備された。
 医療機器も最新のものが揃っている。
 「医師確保のために大学病院の各医局から要望を聞きました。当初、手術支援ロボットの導入は予定になかったのですが、大学病院から今後ロボット支援手術がメインになってくるから外科医養成には必要と助言され、導入を決めました。同様に、医局からの要望の高かった精度の高い放射線治療器やPET-CTも設置しました。大学病院から消化器内科の基幹病院としての役割を期待されたことを受け、かなり広い面積の内視鏡室を確保し、AIを用いた内視鏡診断装置も導入しました」
 その内視鏡センターは2階中央部にあり、隣接する健診センターと検査室を共用することで効率的な運用を図っている。
 大学病院からの要望だけでなく、地域の医療状況を鑑み2つの新たな施設も設けた。「西濃医療圏には回復期リハビリ病床が少ないため、私たちは患者さんに隣の岐阜医療圏の病院を紹介しなければならず、患者さんにとても不便をかけていました。新病院では急性期から回復期までを完結できるよう400病床のうち41床を回復期リハビリ病床に、41床を地域包括ケア病床にしました」と西脇氏は話す。
 3階の回復期リハビリ病棟にあるリハビリ訓練室はガラス窓が大きくとられ、外のテラスでも訓練が可能だ。また、室内にはキッチンや浴室なども設置され、日常的な動作も含めたリハビリで自宅復帰を目指す。
 もう一つの新たな施設は緩和ケア病床である。「西濃医療圏の緩和ケア病床はゼロ。住み慣れた地域で最期を過ごしたいと希望する患者さんのニーズに応えるため、最上階に25床全個室の緩和ケア病床をつくりました」。
 緩和ケア病床には、家族が泊まったり休憩したりできる和室の部屋や明るい日差しが差し込む談話室が設けられている。中でも、家族が自由に調理できるキッチンに用意されたかき氷機は冷たいものを所望する患者や家族にとても好評という。

リハビリ訓練室。自宅を想定してADL訓練ができる浴室、キッチンユニットを備えている

■ がんの早期発見から終末期まで一貫した診療を柱に

全国でも珍しい内視鏡を搭載した
胃カメラ検診車
内視鏡室に隣接し、効率的に検査
が受けられる健診センター
外来受付。館内のイスには、飛騨
の木材が使われている
 開院して間もないが、すでに旧2病院との違いが現れてきた。例えば患者層。かつては高齢者が多かったが、岐阜市内から車で20~30分、大垣市からもアクセスがよいこともあり、周辺地域からの若い患者が増えている。また、救急医療にも大きな変化がある。
 「旧揖斐厚生病院には整形外科と脳神経外科の常勤医がいなかったので、交通外傷や骨折の患者さんは他病院へ搬送されていました。今は31診療科の多くに常勤医がいるのでさまざまな領域の患者さんが西濃医療圏だけでなく隣の岐阜医療圏からも搬送されるようになりました。開院して1か月足らずで救急搬送件数は旧揖斐厚生病院の約2.5倍に急増しています」と西脇氏は喜びつつも、「医師の数が増えたとはいえ、今なお十分ではありません。スタッフは一生懸命対応していますが、この状況が続くと疲弊して脱落しかねません。大学病院にこの状況を説明しながら、さらなる医師確保をしていきたい」と話す。
 医師確保について嬉しいニュースもある。旧揖斐厚生病院での初期研修医の定員は2名だったが、実際の研修医の数は平均1名。それが新病院では4人の定員に対し、フルマッチとなっている。「今後は定員をもっと増やせるのではないかと思っています。そのために、研修医の希望診療科には重点的に研修できる体制を整える予定です」。
 これまで旧2病院では健診、特にがん検診に熱心に取り組んできた。例えば旧揖斐厚生病院は消化器では全国でも珍しい内視鏡搭載バスで巡回胃がん検診を実施していた。そうした取り組みは新病院にも引き継がれている。しかも、がんが発見された場合、新病院で手術支援を受けたり、最新の放射線機器、15床の化学療法室で治療を受けることができる。残念ながら終末期になったとしても、緩和医療の専門医が常勤する病棟に入院が可能だ。
 「がんの早期発見から終末期まで一貫して診られる病院は岐阜県内でも恐らく当病院だけでしょう。今後実績を積み上げていき、当院の大きな柱にしていきたい」と西脇氏は将来を見据える。
 「これまで西濃圏域の急性期医療は主に大垣市民病院が担っていました。その分、高齢者や回復期の患者さんの引き受けが難しく、岐阜医療圏に送らざるを得ませんでした。当院が大垣市民病院で足りない診療領域や患者さんを引き受け、西濃医療圏でカバーできるようにしなければいけません。なぜなら地域医療に貢献することが私どもの最大のミッションなのですから」。
 病院の入口を入るとすぐに案内してくれるコンシェルジュ、さりげなく配された飛騨の木製イス、そして濃尾平野の素晴らしい眺め……。心地よいぬくもりのある西濃厚生病院は地域住民の誇りになるに違いない。

温かな色調でまとめられた緩和ケア病床の談話室と家族室

取材・文/荻 和子 撮影/轟 美津子

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